Story - The Five Tails -

 その年のポケモンリーグ、私は優勝候補のトレーナーとして大きく取り上げられていた。

 もともとは、ほとんど取り上げられていなかった。ただ、その年の注目選手が何名か紹介されており、その中で取り上げられてはいたものの、ポケモンリーグの紹介記事のインタビューを受け、写真が一枚掲載されたのみだった。

 そんな私が大きく取り上げられることになったのは、リーグ大会前に起きた、とある事件だった。これは十年以上経過している今でも、語られるほどの大事件で、私はこの事件の解決に助力していた。それがどこからか広まり、道端に転がっていた石ころがダイヤモンドだったかのように、急に注目を浴び、凄腕トレーナーとして優勝候補にまで持ち上げられた。

 今思うに、これが私にとって最悪の結末への第一歩だと考えると皮肉だ。

 眠っていたダイヤモンドは詳しく調べられることになった。出身地、趣味、これまでの戦歴、バトルスタイル等、ありとあらゆるものが調べられた。メディアでは「冷静な判断を素早く下す」だの、「表情を出さない冷徹なトレーナー」だの、「要塞の司令塔」という表現が用いられた。

 要するに冷静で、かつ残酷なトレーナーだと紹介されていたわけなのだが、当時の自分はそんなことに気づく由もなかった。急に取り上げられ、練習をするとギャラリーが集まり、サインや握手をお願いされたり、取材も多く押しかけてきた。練習をすれば、大したことでもないのに歓声が起こったり、集中して練習することなんてできなかった。

 そんな日がしばらく続くと、笑うこともできなくなった。優勝候補という名目と周囲の期待というプレッシャーに押しつぶされて、精神的な余裕がなくなり、感情的になりやすく、なんとかプレッシャーを追いやろうと気分転換に一度外に出れば、好奇の目にさらされ、選手村の食堂でさえも同様で、心の休まる場所がなかった。次第に、誰かと顔を合わすことも嫌になり、日中は部屋に閉じこもり、練習も夜のみという生活に落ち着いてしまった。

 そんな精神状態で冷静な判断なんてできるわけがなかった。バトルフィールドに立つと、何千人という観客の注目を浴びることになる。心が疲弊していた私に、その大舞台で立つだけで精一杯だった。このときのバトルについてはほとんど記憶にない。ただ、会場が歓声で覆われる中、フィールドに倒れている五本の尻尾だけは目に焼き付いていた。

 優勝候補はあっけなく予選で敗退した。

 それからのメディアや世間の手のひら返しはひどいものだった。メディアは、あれだけ勝手に持ち上げておいたくせに、私が「有頂天になって練習をサボっていた」だの、「調子に乗って取材ばかり受けていた」だの、「戦歴は偽装だったのではないか」だの、「解決したあの事件自体がそもそも自作自演で真の黒幕なのではないか」といった憶測記事を書き連ねて、私を集中砲火した。さらにその横では、さっさと別の候補者の注目記事を掲載し、私のことは悪く書き連ねて終わりだった。

 世間は世間で、人が寄ってくることはなくなった。注目を浴びるのに嫌悪すらしていた私にとって、それはありがたいことだったが、人の目に触れると今度は気持ちの悪い視線や、噂をするひそひそ声が周囲に響き渡るほど降り注ぎ、まるで犯罪者を見るような態度を示されるようになった。それだけならまだしも、水をかけられたり、選手村の私の部屋に不審な手紙や電話が来たり、故意にぶつかられたり、書き連ねたらきりがないくらいの嫌がらせもされた。

 その状況に耐えかねて、早々に選手村から去った。この場所から去れば、もうこんな悪夢のような時間は終わる。そう思っていた。

 だが、実際には終わらなかった。あれだけ注目されていたとなると、それは地方全土に知れ渡っており、どこを歩いてもリーグ会場周辺と同じだった。まるで犯罪者を見るような視線や声。私は再びとあるポケモンセンターの一室に閉じこもってしまった。もう、何もかもが嫌になっていた。人と会うことも、こんな状況に追い込んだポケモンバトルのことも。

 追い打ちをかけたのは、ライバルであり、幼なじみの友人――ファオの躍進だった。

 幼なじみの彼は、私と同時期に故郷を旅立った。旅の途中、何度も彼と会い、何度もバトルをして、何度も私が勝利し、何度も彼は再戦と次の戦いでの勝利を宣言した。彼とは、お互いを高め合うライバルであり、旅を支え合う仲間であり、そして、私の恋でもあった。そんな一度も私に勝ったことのない彼が、そのリーグ大会でベスト四に収めた。――私の実力が衰退したことを悟った。

 体を丸めてベッドの上に一人座り込む私に、切なげな鳴き声とともに体を寄せてくる子がいた。それは、私の最初のパートナーであるロコンのキュウだった。まるで泣き出しそうな表情をしながら心配そうに見つめてくるが、大丈夫だよと元気づけてくれるかのように擦り寄り、キュウの暖かさを感じさせてくれた。

 しかし、それは一瞬にして感じ取ることができなくなってしまった。キュウの尻尾を見てしまったのだ。五本しかないロコンの尻尾を――私の戒めの象徴を。

 もう何もかもが嫌になった。すべての事に耐えられなくなった。


* * *

 それからしばらくの間は、再び旅して回った。ただし、それはバトルのためじゃない。各地のポケモンセンターを周り、宿を確保するのと同時に、手持ちのポケモンたちを野生に帰すためだった。

 このときにはもうポケモントレーナーをやめていた。もうバトルすることもなく、ポケモンたちを育てる気力もなかった。それならせめて、もともと彼らが生きていた土地に返してあげよう、と思い、ポケモンたちを捕まえた場所に出向いては逃していた。

 これまで長い間付き合ってきたポケモンたちだけに辛かった。ポケモンたちも同じ気持だったのか、私から離れようとしない子も多く、逃げ出すようにしてその場をさらなければいけないこともあった。彼らの寂しそうな目を見たとき、こみ上げてくる感情がたくさんあったが、押さえつけながら。

 このことが、自分の心の傷を掘り下げていたこと、トレーナーに慣れた彼らを今更野生に帰すことは、逆に彼らにとって苦痛なこと、当時はそんなことすら全く気づけなかった。今、彼らを野生に返したことは悔やんでいる。彼らはちゃんと生きていけているだろうか? 生きていけているならば、元気だろうか? 人間を恨んではいないだろうか? ――一度、探しに行ったこともあったが、それらを知る術はもうなかった。

 最後はキュウだった。キュウは一番長い付き合いのパートナーで、一番手元に置いておきたくないポケモンだった。キュウの尻尾を見るだけで、あのときの自分自身の戒めとリーグ大会の会場の歓声がフラッシュバックし、気分が悪くなった。

 だが、キュウは私から離れようとしなかった。他の子のように振り払って逃げ出しても、数時間後には再び近くにいた。私は罵声を浴びせた。キュウとは一緒に居たくなかったから、逃げ出してくれるように。おそらく、キュウに対するこれまでの思いをすべて言葉に乗せただろう、と思う。汚い言葉すら浴びせたかもしれない。その時はもう無我夢中で何を言ったのか全く覚えていないが、それでも、ふと気がついた時は、キュウが変わらずその場にいて、私をじっと心配そうに見つめていた。そして、私の目に映ったのは、五本の尻尾だった。

 このとき悟った。五本の尻尾は、キュウに辛いことをしたという私自身の戒めの象徴。私がキュウを嫌っていることを知って、彼女自身が受けた辛い仕打ちを、私にしてやろうとーー復讐をしてやろうと思っているのではないか、と。

 キュウを見ると急に怖くなった。まるで呪いをかけられたかのような、背筋が凍り、息をするのも辛く、恐怖が私を包んだ。もし仮に私が逃げ出すのに成功しても、いつの間にか側に戻っていたり、見つかるまで誰かに見られているような視線を感じたりする気がした。

 逃げ出す術はなかった。キュウのその復讐という名の呪いを受け入れ、彼女のその呪いが解けるまで、もしくは解く術を見つけるまで付き合うしかない、そう感じた。自分自身の戒めも解放するためにもキュウと付き合う覚悟を決めた。怯えて暮らし続けるよりかはましだ。

 ああ、このとき、まだ正常な理性を保っていたことは私の誇りだ。


* * *

 私はポケモンコーディネーターに転身した。

 ポケモンコーディネーターは、ポケモンコンテストという競技に主に参加するトレーナーのことを指す言葉だ。ポケモンコンテストは簡単に言ってしまえば、自分のポケモンをいかに美しく見せ、かつ、美しくバトルすることができるか、という競技だ。一次審査と二次審査に分かれ、わざを使って自分のポケモンを美しく見せるのが一次審査。コーディネーターはここで篩にかけられ、一次審査を勝ち抜いたコーディネーターが、ポケモンバトルをしながら、いかに美しくポケモンを見せるかを競う二次審査に進出する。二次審査はトーナメント式で、最後まで勝ち残った人が優勝となる。

 今でこそ、この仕事に携わっているから知っているものの、当時、そもそもコーディネーターが何をしているのかほとんど知らず、未知の分野だった。コーディネーターになろう、と思ったのもたまたま訪れた町でポケモンコンテストが開かれており、キュウが熱心に行きたがるものだから、渋々コンテストの舞台を観覧したからだった。

 ポケモンコンテストを見た時、キュウの呪いを解くならこれだ、と思った。と同時に、キュウ自身がこのコンテストの舞台に導いたのは、彼女がこれをやれ、と命令をしてきたように思った。

 ロコンは生まれた時は一本しか尻尾がないが、成長していくと六本の尻尾を持つ。進化してキュウコンになると九本となり、数が多いほど美しいと言われている。だが、キュウの尻尾は五本。ロコンとしての美しさは足りなかった。だから、コンテストに参加することで美しくしろ、と言われた気がしたのだ。尻尾が五本なのは、私が原因だったのだから当然だろう、と。

 コーディネーターの道は茨だった。まず圧倒的に普通のバトルとは共通するポイントが少なかった。一次審査については、例えばかえんほうしゃにしても、ただ強くわざを繰り出せばいいのではなく、わざを加工できる――つまり、コントロールできるようにしなければいけなかった。二次審査のバトルについては、美しくバトルすること、という概念がこれまで全くなかったため、美しくバトルするとはどういうことなのか、という疑問に戸惑っていた。

 これまで全くやったことのないことばかりで、もともと興味があったわけでもなかったので、当初はやる気もなかなか起きないこともあった。ただ、キュウはやる気満々で、私がやる気を見せないと練習をするのを強いてきたりした。

 コンテストに参加するようになっても、全くうまくいかなかった。何度やってもキュウよりも私の指示ミスが多く、一次審査を突破することすらできなかった。何度も何度も参加するがそれは変わらず、その姿を舞台上で披露している私を、観客が笑いものにしていることもあり、気持ちは沈んでいく一方だった。

 やがて、一度も一次審査を突破することがないまま、数年が経過した。

 次のコンテストに参加すると五十回目の節目だったその大会で、私はひとつの決意を固めていた。私がコーディネーターに向いていないのはずっと感じていた。だから、この五十回目のポケモンコンテストで優勝し、有終の美を飾って引退しようと考えたのだ。

 キュウの呪いを解くことはできないだろう。しかし、このままずるずるやっていても意味がないし、別の新しい何かを見つけて早くキュウの呪いを解きたかった。それでも、その数年間やり続けていたコーディネーターでの成果を残したいという気持ちもあり、優勝するという目標を固めた。

 そのために、これまでやってきた以上の特訓をしてきた。このときの特訓ではキュウにも変化があり、表情に笑顔を時折見せ、なんだかのびのびと練習をしていたような気がした。それこそ、バトルをしていたときの頃のような、勝利を引き込む感じだった。優勝できる、そんな気がそのときはしていた。

 ――しかし、優勝することはできなかった。

 演技は完璧だった。これまで参加してきた大会の演技とは一味も二味も違う、最高の演技ができたと自負していた。それなのに、二次審査に進むコーディネーターのカードの中に私の姿はなかった。目標はあっけなく崩れ去ったのだった。

 頭の中が真っ白だった。やがて、その白い世界は様相を変え、暗闇へと変わった。何も見えず、何も聞こえず、手さぐりしても何にも触れられず、怖くなって声を出そうにも声にならない。空気は冷たく、ただただ恐怖が私を支配し、何を考えることもできず、とにかく逃げ出したい、それだけを願った。

 この世界のように行先は八方塞がりだった。掲げていた目標は前向きなものだった。だが、現実は真逆だった。掲げていた目標を達成することもできず、これから先、どうしたらいいのかわからなくなっていた。

 そんなときだった。ファオと再会したのは。私の幼なじみで、あのときのトラウマの原因。

 一瞬にしてあの出来事がフラッシュバックした。周りの人達の私を見る気持ち悪い目、罵声、嫌がらせ――。忘れることのできない負の記憶。脳裏に蘇るそれらに囚われ、視線が浮遊し体に指令を飛ばすこともできなかった。

 そんな私にファオが気づくと、ふと我に返った。そして、私はその場から逃げ出した。見せる顔がなかった。バトルの世界から遠く離れ、コーディネーターとしても誇れるところのない惨めな私が、ポケモンリーグのベスト四に入る優秀な彼と合うわけにはいかなかった。

 だが、一目見た彼を思いだすと急に恋しくなった。昔の彼の姿を思いだし比べてしまう。身長も伸びしているし髪型も変わっている。もちろん服装は異なっているが、好みのベースは同じだということにも気づいた。

 ――会いたい、ふとそう思った。私のかけがえのない存在である彼に。

 相反する思いで葛藤し、気づいた時には自然と足が動いていた。会いたいという気持ちが私を満たし、だが、彼がいるところに近づくに連れて、裏腹な気持ちが私を満たしていく。こんなに落ちぶれた私の姿を見たら彼はどう思うだろう。ライバルでなくなった私を彼は受け入れてくれるだろうか。もし受け入れてくれなかったら……。

 下がる視線の中に、キュウの姿が映った。一緒にここまで歩いてきた彼女は、いつものような心配そうな表情もせず、ただ見守るように私を見ていた。

「コウ?」

 聴覚が反応した。視線を上げると、ファオの姿が映った。

 一瞬、決意が一気に崩れかかった。会えた、そんな思いが一瞬にして巡ると、私の姿を見られたのが恥ずかしいという気持ちが、思考をよぎった。逃げ出したい――。

「来てくれたのか」

 しかし、彼の言葉が崩れかかった決意を抑えこんだ。

 声は出ず、ただただ頷いた。

「話したいことがあるんだ」と彼は言った。「近くに川がある。その近くで話そう」

 川辺に腰を落ち着け、彼の言葉を聞いていくうちに、ファオとは会うべきではなかったかもしれない、と思った。彼の口から出てくる言葉は、あのポケモンリーグからのその後についてばかり。忘れようとしても忘れられない、その気持ち悪くなる出来事を掘り返されるのは、苦痛でしかなかった。

「やめて!」

 ファオのその話に発狂しそうだった。再びフラッシュバックするあの出来事。もう忘れていたはずのことすらあふれるように蘇り、まるでその記憶に抗うように耳を塞ぎ、広がる世界から身を隔離した。

 しかし、その隔離した世界に一つの鳴き声が届いた。ゆっくりと目を開くと、心配そうな表情をするキュウの姿が目に映り、体を寄せてきた。その表情はいつもの心配そうな表情とは異なり、目に涙を溜め、今にでも泣き出しそうだった。

 蘇った記憶のワンシーンと今のキュウの姿が重なった。と、同時に私はとてつもない勘違いをしていたのかもしれない、と感じた。

 キュウはあのときも――ポケモンリーグを敗退し、ベッドの上で一人座り込んでいた時も、今と全く同じ表情と目をしていた。まるで泣き出しそうな表情をし、私に体を寄せたそのとき、キュウは、精神的に病んでしまい、疲弊し尽くしていた私を、優しく包んで、助け出そうとしてくれていたのではないだろうか。それから、いくら私が逃げ出しても付いてきていたのも、ポケモンコンテストの会場に興味を示したのも、すべて私の為だったのではないか。

 もし、キュウから逃げ出した時、キュウが追ってこなければ、今の私はなかった。ポケモンコンテストに興味を示さなかったら、今の私は何をしていただろう――。あのままだったら、もしかしたら、何もすることを見つけられず、余計苦しんでいたかもしれない。コーディネーターになり、目標ができて、今の私は保たれているのだ。

 目に映るキュウの五本の尻尾。それは私にとっては、戒めの象徴だった。だが、その戒めの象徴に囚われ、呪いをかけていたのは――私自身だった。

 私はキュウをぎゅっと力強く抱きしめた。涙を溢しながら。


* * *

 ロコンの尻尾は六本まで生えるが、愛情を沢山受けると、六本の尻尾になり、綺麗な巻き毛になると言われている。キュウの尻尾が五本なのは、愛情を注がなかった私自身に問題があった。

 当時、パーティメンバで他のポケモンたちと比べて、キュウは一番バトルが弱かった。だから、他のポケモンでバトルすることも多くなり、キュウは一向に強くならず、そうしていたのは私なのにイライラしてキュウに怒鳴りつけていた時期があった。そんな頃、キュウを強くするために、強いポケモンと戦うことがあった。だが、レベルの差があるのは明らかだったのに、私はキュウを交代しようとしなかった。いつまでも同じレベルの相手とバトルしていてもキュウは育たない、そんな思いがあったからだ。

 それが裏目となった。キュウは瀕死どころか生死の境を彷徨うほどの大怪我を負った。一命は取り留めたが、私の心にもキュウの体にも、治らない、忘れられない致命的な代償を負ってしまった。

 それが私のキュウに対するトラウマであり、五本の尻尾は、そのときキュウにした仕打ちと私の愚かさの象徴だった。この出来事でキュウは私を恨んでいると思った。それが呆れるほど恐れていた理由。

 だが、キュウはその時のことは気にしておらず、むしろ私のことを気にかけてくれていたことに、恐れるあまり気づくことができなかった。ああ、そのときのことを気にしていたのは私の方だったんだ、と気付かされた。

 キュウを抱きしめた後、ファオにこれまでのことをすべて話した。ポケモンリーグの会場であったこと、ポケモンコーディネーターをやっていること、でも、それをやめようと思っていること。

「本当に、コーディネーターを続けていて仕方ないと思うか?」

 コーディネーターをやめると私が言ったとき、彼はそう言った。

「キュウは思ってるいるはずだ」とファオは言った。「コウの傷を癒してあげたい、って。コウをこんなにも悲しませて――傷つけてしまった。だから、癒してあげたい、と」

 私とキュウの目が合う。話すことができないからこそ伝わらなかった彼女の気持ち。汲み取ってあげることができなかった愚かな私。だけど、このとき、彼女の気持ちがすべてわかった、そんな気がした。

 これまではキュウから逃げ出すためにコーディネーターを続けてきた。でも、これからは、キュウのためにコーディネーターを続けよう、私が楽しむためにキュウに協力してもらおう、そう思えた。それがお互いにとっての、コーディネーターを続ける意義なんだ、と。

 声は震えていたに違いない。でも、しっかりと気持ちを込めて言えたと思う。

「キュウ、ありがとう。ありがとう……!」


* * *

 それから、私は再びポケモンコーディネーターとしての旅を続けた。結論からいうと、これまでとそれほど変わることはなかった。それでも、一次審査は突破することはあったし、少なからず優勝することもあった。だが、コーディネーターとしての最高の舞台であるグランドフェスティバルに出場することは叶わなかった。

 でも楽しかった。負けても清々しい負け方だった。もちろん見栄えの悪いところもあっただろうけれど、私にとって最高のパフォーマンスをしていたし、何よりキュウとその舞台に立つことができるというのが幸せだった。時折、ファオが私の出場する大会を見に来て応援もしてくれた。よくよく考えると、優勝した大会は全てそのときだったような……気がしたが気のせいだろうか。

 キュウの尻尾は今でも五本のままだ。キュウコンに進化させることもできた。だが、もうお互いに五本の尻尾については気にしていなかったし、それを糧に、キュウをより美しくしたいという意義を持てた。戒めの象徴は新しい象徴になっていたのだった。

 新しい旅の中で、様々なコーディーネーターと出会い、競い合い、話し合うことで、私にはひとつの思いが芽生えた。

 コーディネーターとしての実力は、出会った人たちよりもなかったかもしれない。でも、ポケモンコンテストに参加すること、パフォーマンスをすること、ポケモンと息を合わせる楽しさ、それらは一番理解しているつもりだ。

 でも、その楽しさを知る人は多くない。ポケモンバトルと比べると、ポケモンコンテストの知名度はまだまだ低いし、ホウエン地方やシンオウ地方では主流のこの競技も、ジョウト地方では、ポケスロンという競技が、遠いカロス地方ではトライポカロンという競技が主流だ。いずれの地方にもあるポケモンリーグと比べるとまだまだだ。

 この楽しさをもっと伝えたい――。日に日にその思いが強まった私は、それから数年後に、コーディネーターを引退した。そして、今の仕事を始めた。

 始めたばかりは失敗ばかりだった。注目すらされず、一人舞台。それでも諦めずに地道に続け、情報を発信したり、知り合いのコーディネーターに手伝ってもらったり、たくさんの人の協力を得ながら、やっと今の形に落ち着いた。ファオも私の心身ともに支えとなってくれた。

 このポケモンコーディネーターたちを支援する団体は、今では指折りの団体の一つになろうとしている。ポケモンコンテストの知名度はまだまだ地方の範囲を出ないが、それでも、確実に前に進んでいる。これからも、この支援を続け、この楽しさをたくさんの人に知ってもらう活動を続けていくつもりだ。

 今でもトラウマのトレーナー時代や、挫折ばかりのコーディネーター時代のことを思いだす。楽しいこともあれば、世間の冷たさを知り、優しい大切な人とも出会えば、咎められるべきこともしてしまった。それらのことがあったからこそ、今の自分があり、新しい目標を手に入れることができた。

 この物語は私のこれまでの人生。これからもまた、その物語には新しい出来事が刻まれていくだろう。それは、辛いことかもしれないし、楽しいことかもしれない。

 だけど、今はまだこの幸せな物語を続けていきたい……。ファオと、キュウと一緒にこのままずっと。

あとがき

 ポケモン小説スクエアの先代であるポケモン情報エリアが開設されてから十年を迎えました。本作はその十周年記念小説となります。

 本作は、四周年記念小説である「五本の尻尾」の主人公であるコウの「物語」です。「五本の尻尾」のあとがきにも書いてあるのですが、様々な脚色がされているものの、コウが歩んできた大筋の人生は、ポケモン小説スクエアそのものです。

 最初の一年は、攻略サイトとして界隈ではそれなりのアクセス数を稼いでいたサイトだったのですが、いろいろ悩み、最終的には、小説サイトに転身。それからは、アクセス数は一〇〇もいかないサイトになり、小説も人気が出るわけでもなくひっそりと活動していました。そして、今そのサイトは小説の投稿サイトになり、いろんな人に利用してもらえるサイトになりました。これが、まさにコウの人生そのものです。違うといえば、ファオと出会った後の復活のところでしょうか。私にも、ファオのような救ってくれる人がいたら、今のサイトはもっと違う形になったかもしれませんね。

 「五本の尻尾」は、実は私の書いた小説の最終作でした。というのも、一次創作も含め、「五本の尻尾」以降、作品を書いておらず、当時スランプで、プログラミングに熱中してしまったのもありますが、二〇一〇年に断筆宣言をしています。ただ、二〇一二年にポケスクの覆面作家企画に投稿するために作品を書き、それから少しずつ書き始めているのですが、一度宣言をしただけあり、「五本の尻尾」は一つの終着点でした。

 そんな個人的な印象が強く、四周年記念小説である「五本の尻尾」と、壮絶な転落人生を生きてきたコウの幸せな未来を描きたくなり、本作の執筆を思い立ちました。実のところ別作品の構想中に出てきたのですが、四周年以降、ポケスクは新しい道へと進み、「五本の尻尾」で迎えたコウの大きな分岐点とも一致し、この物語はコウがまさに適任であり、再登場となりました。

 本作では「五本の尻尾」を原作としてベースにし、コウの一人称視点の作品となっています。そのため、重複している部分があり、コウの過去を掘り下げ、その先の未来を描く、また、コウ自身がどう思ってきたのかがわかる作品で、五本の尻尾の番外編と言えるかもしれません。

 そんな新しい彼女の物語はまだまだどうなるかはわかりません。このまま安定した道を行くのかもしれませんが、それも努力次第でしょうか。それは、また、ポケスクもしかりなのです。

 初版:二〇十五年九月十日

 四版:二〇十五年九月十五日

もくじ