風の発電所

 風というものは、季節によっては愛されたり愛されなかったり、風力によっては愛されたり愛されなかったりと、安定しない愛を受ける。たとえば、前者の例で言えば、夏場は重宝されるが冬場は嫌われるし、後者の場合は、そよ風などでは重宝されるが、台風のような巨大なものになると嫌われる。まったく、風にとっては複雑な気分であるのは間違いないだろう。

 その不安定な愛を安定した愛として受け止めているのは、風力発電所である。なにせ、風がなければ困るが、いくら強くてもそれだけ電力を作れるわけだし、電気を作るのに季節はまったく関係ないのである。


 私の住むソノオタウン東には「たにまのはつでんしょ」と呼ばれる風力発電所がある。その発電所から、勤めているフラワーショップに花の注文があったから、それを届けに向かった。

 その途中、私は友達であるブイゼルのイロルと会い、共に発電所へと向かっていると、プロペラ風車??発電用風力原動機が正式な名前らしいが??のあたりに、黒い風船のようなものをみつけた。私の脳内にあるポケモンの字引が一気に開いていき、そのポケモンがフワンテであることを思いだすのに五秒を要した。

 その結果を導き出していたせいで、私はフワンテが、プロペラ風車に巻き込まれそうになっていたなど気づいていなかった。フワンテは、巻き込まれないように抵抗しているようだが、まったく効果をなしていない。

「イロル、みずでっぽうでフワンテの場所をずらして!」

 イロルは野生のポケモンであるが、私になついており、その指示をすぐさま実行した。みずでっぽうを受けたフワンテは、プロペラ風車の魔の手から抜け出だすと、下に下りてきた。

「大丈夫、フワンテ?」

 見た限りフワンテはどこも怪我をしている様子はなかったが、そう尋ねてみた。だが、尋ねる必要はなかったことがフワンテの反応でわかった。

「この辺は、風車ばかりだから気をつけてとぶのよ」と、私はフワンテにそういうとそれは飛んでいった。

 空は曇り空だった。


 発電所で、注文のあった花を所長に渡し、町に戻ろうとすると、大雨が降っていた。

「あちゃ、これは大雨だねぇ」それをみた所長はいった。

「そうですね」と私。「仕方ない、走って帰ろうかイロル」

 私たちが、走り出そうとすると、それを所長はとめた。

「雨宿りでもしていってはどう?」

「いや、でも、お邪魔になるといけないですし……」

「何も邪魔にはなりやしないよ。このとおり、広いところだからね」

「でも??」

 そのとき、外から一瞬の輝きが部屋を照らしたと思うと、数秒後に鈍い音が??雷が鳴った。

 私はおとなしく、発電所で雨宿りをすることにした。本来はするつもりはなかったものの、私は雷が苦手だった。雷が鳴って、一人でいると私は不安で不安でしょうがない。雷の中、一人で過ごすとなれば私は死人も同然だ。

 雷が鳴っている間、私は所員といろいろ話しをして雷の音を紛らわせていた。雷を忘れるには話すのに限るのだ。一人のときはいつもそうしている。もちろん、常にいるわけではないので、電話だけれども。正直なところ、真夜中に雷が鳴っても私は電話をかけている。迷惑な話だというのはわかっているんだけれど。

 雷が鳴り終わってから、半時間ほどたったときに、やっと私はそれを知った。所長に暇を告げるため、所長と会うと、何かあせっている様子だったので、何かあったのかを私は尋ねた。

「発電機が三つ壊れてしまってね。早くに修復しないと、電気がストップしてしまうんだ。三つ壊れるなんて、まったく困った話なんだよ!」

「それじゃ、急がないと所長さん。では、私はこれでお暇しますので」

「ああ、ご苦労様でした」

 所長は外へとかけていった。

 雷が鳴り終えても、雨は降っていた。そして、雷のかわりにか強風が吹いていた。それにしても、所長は雨が降っていることを考えていなかったのだろうか? このままいけば雨宿りとはいえまい。とはいえ、その中を帰ろうと思ったのは私自身だし、雨にぬれずに帰ろうなんて毛頭思っていなかった。

「さ、行こうか、イロル。どっちが早いか競争しよっか?」


 店に着くと、今日はもういいからと言われ、家に帰った。また、イロルも自分の家へと帰っていった。

 シャワーを浴びた後、ドライヤーで髪を乾かしていると、突如ドライヤーがとまったと思うとライトの明かりまで消えてしまった。きっと停電だと思いつつ、ブレーカーのスイッチをあげた。そして、再度ドライヤーを使うとまたブレーカーが落ちてしまった。

「電気の使いすぎってことか。でも、今まではちゃんとできたのに……」

 ライトをつけずにドライヤーを使ってみたものの、やはりブレーカーは落ちてしまった。あきらめて、そのままにしておきリビングへと出ると、ベランダのほうからフワンテが飛んでいるのを発見した。おそらく、イロルと助けたあのフワンテだろう。

 私はベランダに出て、そのフワンテに声をかけてみた。さほど遠い場所ではなかったので、フワンテもすぐ気づきこちらにやってきた。すると、フワンテの様子がおかしいことに気づいた。なにやら、あせっている様子である。

「どうしたの?」私は尋ねてみる。

 フワンテは発電所がある方角をさした。そういえば、今は停電??というより、電力不足が起きている。そして、所長が言っていた言葉を思いだした。『発電機が三つ壊れてしまってね。早くに修復しないと、電気がストップしてしまうんだ。三つ壊れるなんて、まったく困った話なんだよ!』

 それがわかったとはいえ、いったいフワンテが私に何をしろといっているのかまでは理解ができなかった。発電所のことならば、所員たちに任せればいいわけだし、無力の私がいるだけ無駄という話である。

 そうは思ったものの、少し気がかりになったことは認めなければいけない。人員不足だったり、強風にあおられてしまっていたりとさまざまな問題が考えられる。そう考えてしまえば、みな不安になってしまったので、私は腰をあげた。

 発電所に来ると、まず目に映ったのが救急車だった。私は急いでそこへ行くと、所員二名が担架に担がれ救急車の中に入っていった。

「いったい、どうしたんですか?」所長を見つけたので、彼に尋ねた。

「強風にあおられて転落したんだよ。幸い、打ち所は悪くないらしいがね。にしてもまいったなぁ。このままじゃ発電するにできん」

「まだ、プロペラ風車は直ってないんですか?」

「ああ、そうだよ。修復箇所が高台でね。ほら、高いところは風が強いでしょ? それで、さっきの二人がそこで作業をしていたんだが、風にあおられてしまったんだよ。これじゃあ、危険が高すぎて作業もするにできないよ」

 所長の顔がとても悲しそうだった。このままでは、町には十分な電力がなお行き届かなくなり、最終的にはストップしてしまう。そうなれば、いったい所長にどんなことが起きるだろうか……。

 そう思っていると、自然にどうすればこの状況を打破できるかを考えるようになっていた。修理、高台、強風、危険…………。

「あの」私は口を開いた。

「なんだい?」

「フワンテって確か空を飛べましたよね? 人を連れて、ですが」

「そうだねぇ。フワンテの足みたいな紐をつかめば飛べるよ。それがどうかしたのかい?」

「このフワンテを使って高台の修理はできませんか? つまり、高台での修理にいくときと降りるときにフワンテを使い、落ちそうになったときもフワンテにつかまることができれば、なんとかできるんじゃないでしょうか? もちろん、危険はかなり伴いますが、修理中は私のポポッコのにほんばれで照らすので雨にぬれることはないですし、いざとなれば、イロルを使って救出することもできます」

「しかし、それじゃあ危険すぎるよ。確かに、普通にやるよりかは安全だけど……」

「そうですよね…………」

 やっぱり口に出すべきではなかった、と後悔した。こういうときは、やはり安全性を取るのが当たり前なのだ。どうして、私はそれに気がつかなかったのだろう。


 それから一日たったものの一向に回復する兆しがなかった。というのも、あの雨と強風??雷はどうだかわからない??は、台風によるものだったのだ。それがずいぶんと遅く進んでいるものだから、一日たったこの日にも、さらに威力を増した雨と強風が続いていた。

 運がいいのかはわからないが、その日は店の定休日だったため、私はずっと明かり以外の電気を使うことができない状態の家にいた。何もやることがなく、ボーとしていると、チャイムが鳴り扉を開くとそこには、所長がたっていた。

「あれ、所長さん。いったいどうしたんですか? それに、なんで私の家の住所を?」

「住所は、店の人から聞いたよ。まあ、今日は休みだったから苦労したけど。それより、君に助けてほしいんだ」

「助けるって何をですか?」

「昨日、君が考えた方法を実行したいと思うんだ」

 それを聞いて私は驚き、所長を凝視した。

「本来ならこんなことをすべきではないんだが」所長は前置きを入れてから言った。「なにせ、大苦情なんだよ。それに、このままだと残りの発電機も使えなくなってしまうようになるんだ。この台風はしばらくこの辺に停滞するという話しだし、こうなったら早めに復旧することにしたんだ」

「でも、危険についてはどうするんですか?」

 私は皮肉のつもりでいったわけではなかったが、所長にはそうとったらしい。

「君には申し訳ないと思う。昨日はあんなことをいったのに。だが、こうするしかないんだ。??修理については私が責任を持ってやるつもりだ」

「所長さんが?」

「作業員に怪我をさせるわけにはいかないが、私ならまだ問題にはならないんだ」

 私は悩んだ。所長がいったことは確かに問題としては解決しているように思えるが、所長が怪我をしたらさらに問題になるのではないか? それに、所長にもしものことが起きたとしたら、いったいこの先どうなってしまうのだろう。

 私は、あんなことを言ったことに再度後悔した。

 しかし、所長は完全にやる気だった。そのやる気が私の後悔を上回り、結果実行することになってしまった。

 とはいったものの、作戦を実行するまでには多少の時間を要した。なぜなら、フワンテは野生のポケモンであり、どこにいるかはわからない。そのフワンテを探すのには、苦労を強いられたからだ。やっと見つけたときは、三時間が経過していた。


「じゃあ、気をつけてくださいね」私は所長にいった。

 イロル、ポワ??私のポポッコ??、フワンテの三匹が集まり、発電所の所員たちも集まり、準備は万端となった。

 所長は、フワンテにつかまり、修理すべき場所へと着地した。修理にはフワンテをつかみながらはできないので、フワンテはいったん解放され、所長にもしものことがあったときに、救出ができるようポジションへとつく。所長が着地した場所が、滑らないようにポワのにほんばれで水を蒸発させ、所長を作業へと集中させた。イロルは、フワンテにつかまれなかったときのために、下で準備していた。

 作業は順調に進んでいた。一つ目の修復が終わり、二つ目の修復が終わり、三つ目の修復への取り組みを開始して、と。ところが、三つ目の修復には問題点がひとつあった。

 所長は上から降りてきた。所員たちに声をかけていた。

「ここのやつだが、どうやら、パーツすべてが壊れてしまってるらしい。わたしが持っていける道具だけじゃ修理できない」

「でも、二つ直りましたし、無理にも直さなくていいんじゃないですか?」私は言ってみた。

「確かに直さなくてもいいだろう」所長は答えた。「だが、今のうちに修復しないと発電機自体が壊れてしまうんだよ。??つまり、早く直さないといけないわけだ」

 所長はそういうと、所員と相談を始めた。話の内容は聞こえたものの、まったく内容を理解することはできなかった。それよりも、今私ができることを考えなければならなかった。とはいったものの、これといった名案は浮かばなかった。

「決まったよ」所長はいった。「わたしが一回上に上がり、その後フワンテにほかに必要な道具を持ってこさせるようにしたよ。そうすれば、必要なときにフワンテから道具をとればいいからね」

「でも、それだと危険じゃないですか?」

「フワンテが下にいってるときだけだよ」所長は笑いながらいった。「その間は、せいぜい一、二分だから大丈夫だよ」

 その案を実行することなったのは言うまでもないと思う。

 所長は、見事にその案を実行させ、修復の作業についていた。修復はどうやら、時間がかかるらしく、長い間、上で作業を続けていた。雨が降っていないだけ、にほんばれで照らされているその場所は、晴れの日と同じように作業ができているらしく、その動きはスムーズだった。

 その動きは、幾分スムーズすぎたのかもしれない。いや、にほんばれが悪かったのかもしれない。

 フワンテからの道具を取ろうとしたそのとき、強風が吹き、所長は下へと落ちてきた。

 その状態に、私はあっけにとられてしまっていた。何がなんだかわからなかった。その状態がわかったときには、すでに危険な状態と思われるほど低いところにきており、すぐにイロルにみずでっぽうの指示を出し、所長の背にあてたが、ぎりぎりのところで間に合わなかった。

 私を含め所員たちは、すぐに所長の元へと駆け寄った。幸いにも所長には意識があった。イロルのみずでっぽうの効果が発揮したのだ。

「発電機は?」

 所長は立ち上がることができず、その声も低かった。だが、ちゃんと聞こえたので、プロペラ風車を私は見た。

 風車は動いていた。

「動いてます」

「そうか……。誰か、最後のふたを閉めることだけはやってくれ」

 所長はそういうと気を失った。


 ソノオタウンにある病院の一室に私はいた。所長の怪我はいわゆる骨折。とはいえ、打ち所がよく背骨が折れることなかったから、とても運がよい結果となった。

 私は、所長のお見舞いに行くのがつらかった。こんなことにしたのは、私の責任であるからだ。あんなことを私が提案したから……。

「別にこれでよかったのさ」私が謝罪すると、所長はそういった。「それに、これは君のせいじゃないよ。フワンテに道具を持たせたわたしが悪いんだからね。それに、あのタイミングで強風が吹いたのが不幸だったから、こうして背骨を折らないという幸運に見舞われたんじゃないか。よかったんだよこれで」

「でも……!」

「いいのさ、気にしなくて。それに、電気だって直ったおかげでこうなったんだし、すべてはこれでよかったんだよ。直ってから、こうなったんだし、わたしは幸運に見舞われたんだ」

 所長の言葉は、私の気持ちを少しやわらげてくれた。


 外は快晴だった。風は弱く、やさしく私たちから吹き抜けていく。だが、私はその風が許せなかった。遠くではプロペラ風車が回っていた。

 プロペラ風車は心が広い。直してもらった人間は風にやられたのに、今では風を快く受け入れていた。

あとがき

 WEB拍手のお礼第三弾であり、ポケモン小説版花鳥風月シリーズ第三作です。

 「風」のテーマは、案外得意分野だとにらんでいたんですが、意外と難しかったのには驚きました。なにせ、風の発電所といえど、発電所なだけに雷のイメージがどうしても強くなるし、風の存在が薄れがちでしたしねぇ……。まあ、実際、そのままの結果になってるわけですが。

 さて、これですが、特にテーマのようなものもなければ、これといった想像もなく、完全に楽しむだけ(楽しめるかすら微妙ですが)のものとなっていて、私としては悲しいことになりました。でも、まあ、ストーリーの流れ的には、「花」と「鳥」よりかはよかったかなぁと思います。ストーリーの内容についてはどうだかわかりませんが。

もくじ