月の光

「わぁ、綺麗な星空だね、イロル、ポワ」

 ブイゼルのイロルとポポッコのポワは一声鳴いて、私の言葉に同意してくれた。

 美しい星が、点々と闇に包まれた空にたくさん輝いていた。このたくさんの星は、とても珍しいもので、年に一回あるかないかというものだった。私が、ジョウトにいたときも、この星空を見たことがあったが、シンオウのほうが星の数は多いように思えた。

 それを感じたのは私だけでなく、ジョウトにいたときからパートナーだったポワもそれを感じ取っていたらしい。

「それに今日は満月だね。こんな星空の中で満月なんて、もう何年も後もないかもね」

 綺麗な星空を大きく占領しているのは、綺麗な満月だった。その満月は普段の満月よりも、周りを点々と輝いている星に輝かされているようで、さらに美しく見えた。それはもう何年たってもみれないほどの。

 こんな夜はもうこないだろうなぁと私は思ったほどの美しい星空と満月の夜だった。


 それから約一ヶ月ほどたったある日、ソノオタウンにある花屋さんのフラワーショップいろとりどりで働く私に、初めての花を届ける仕事を店長から頼まれた。

「そろそろこれぐらいもできると思うわ」店長は言った。

 この店で働くようになってからだいぶ長くなった。ソノオタウン周辺の土地についてもだいぶ知っていた。

「このお花をハクタイシティのこの家に届けてほしいの。最近この町に住んでいた人だから、フナミちゃんも知ってるかもね」

 そういって、私は住所が書かれたメモ用紙を渡され、数十分後には自転車の荷台に固定して花を置き、ハクタイシティへと向かった。

 その途中の二〇五番道路は坂があったり、ポケモンバトルが行われてたりと、少々危ない場所で、私は気をつけながらその場を通っていた。そんな私を見つけたのだろう、イロルが私のところへやってきているのを私は認めた。そのとき、私はイロルに気をとられすぎていて、自転車を木にぶつけてしまった。なんとも情けない話である。

 幸いかどうかは不明だが、私はかすり傷程度で済み、荷台に乗っていた花も植木から土がこぼれる程度で、ほとんど問題はなかった。だが、問題の自転車は前のカゴは破損し、枝でも踏みつけたのか、前輪がパンクしていた。

「あちゃー」私はため息を漏らした。「これじゃ、動かないわ」

 そのとき、イロルは私のところへやってきた。イロルは、二〇五番道路に住む野生のポケモンなのだが、私とは仲がよいポケモンである。

「私はね、このお花をハクタイシティに住んでいる人のところに届けないといけないのよ」

 イロルが私を不思議そうに見ていたので、説明してあげた。

「でも、これじゃハクタイシティまではいけないかな。幸いにもお花は無事だけど」

 私の困った顔が出たのだろうか。イロルは自信ありげに、そのままいこうというような元気ある声を出した。

 確かに、ハクタイシティまでの道は知ってるから、歩きでいこうと思えばいけた。二〇五番道路からはそう遠くないし、町に戻るのも私の顔がたたないから、私は歩きでハクタイシティにいくことに決めた。イロルもどうやら、ついてきてくれるらしい。

 今回はまったく恥ずかしく、私の顔が立たないことが多々あって、自転車を壊した次に私は道に迷ってしまった。そう、深い森に……。ハクタイのもりに……。最初のうちはまだよかった。森といえど、ハクタイのもりは、昼間だと明るい場所だからだ。しかし、昼中にその森を抜けることができなかった、私は闇夜に包まれた不気味な雰囲気をかもし出す、ハクタイのもりへ迷い込んでいた。

 さらにいやなことに、この日は昼間明るかったにもかかわらず、雲が空を覆いつくし、地上に光を照らし出すことはなかった。ただただ、真っ暗でほとんど何も見えない。私は背筋が凍る思いで、森の中を歩いていた。

 カアカア…………カラス??ヤミカラスの不気味な鳴き声が森の中に響き渡った。私は飛び上がるような思いをし、もうこの森から早く出たい??こんな森にはいたくない、と夜の森の恐怖に完全にとらわれてしまっていた。

 そんな恐怖心にとらわれているとき、イロルが私に上をみるように動作をしたのでみてみると、木の上に一匹のヤミカラスがとまっていて、こちらを見ていた。そのときの私の心理状況でいえば、それはまさしくお化けをみたに相当する出来事で、私は叫び声をあげた。

 叫び声をあげた女性ならば、その場を脱するかうずくまるかどちらかだが、私は後者だった。イロルはそんな私を支えるようにしてくれていたが、私はもう立ち上がる勇気がほとんどなかった。恐怖……このときほど私は恐怖を味わったことはない。

 そんな時、いつの間にかにポワがボールから出ていて、イロルと一緒に私を支えてくれているのに気がつくと、私の周辺にいい香りがするのにも気がついた。あまく、心を癒すような香り。

「ポワ…………ありがとう。この香りは、ポワのあまいかおりね」

 ジョウト時代にポワが習得したのがあまいかおりであった。それには心を癒す力や心を落ち着かせる力があり、私の心は何とか安らぎを得、落ち着きを少しずつ取り戻した。

 やっと立ち上がれる状態になり、先ほどの木の上をふとみると、そこにはまだヤミカラスがいた。それに気がついたヤミカラスは、一声鳴き声をあげ、ほかの二匹に注目させると、まるでこっちにこいとでもいうかのように、飛んでいった。

 もちろん、私はそれについていかなかった。不気味なヤミカラスについていこうという気になどなれなかったのだ。

 そのヤミカラスがいなくなってから、しばらくたったころ、突如雨が降り出した。私とポワは、雨宿りができそうな木の下に入り込んだ。イロルはみずタイプだから、その雨を大いに歓迎し、水浴びをしていた。

 そんなイロルと私は対照的だった。

 私はこれからどうすればいいのだろう、と考え込んでいた。この深い森からいったいどうやれば脱出できるのか、まったく検討もつかなかった。それに、この雨の中では眠ることもできない。たとえ雨が降っていなくても、寝袋などがないから寝ることはできないだろう。

 そんな悩みを深々と考えると、イロルが何かいっているのが聞こえたので、イロルをみると、私の後ろを指指していた。後ろを振り返ると、少しばかり遠いが、屋敷があるのが認められた。

 屋敷! そこなら、雨宿りにも最適だし、眠ることもできる。それにハクタイシティへの道も教えてくれるかもしれない。私の気分は一気に上昇し、その屋敷へと足を運んだ。

 屋敷に近づいてみてわかったことだが、その屋敷はまさにこの夜の森を象徴し、また、この夜の森の統一者であるように思われた。まさに、幽霊屋敷とでもいえる屋敷だった……。

 そんな屋敷を見れば誰だって入りたくなくなるだろうが、雨足も強くなり、このままでは風邪を引いてしまう状態だったので、玄関をノックした。だが、反応はなく、扉を引いてみると、不吉な音をたて、扉は開いた。

 中はどの屋敷とも同じエントランスであった。階段が二つあり共に二回へと続いている。電気がついているので、誰かいるのかと思い、大声を出してみるのだが、誰も出てこない。そのとき、私はさらに恐怖心が増したのはいうまでもない。とはいえ、前述どおりこの雨だし、誰もいないならエントランスで寝る程度なら大丈夫だろうと思い、私はエントランスより奥には行かないことで落ち着き、雨宿りをすることにした。

 雨は一向にやむ気配はなかった。今夜中はこのまま雨が降るかもしれない……。そう考えただけで私は身が震えた。確かにこの屋敷には感謝しているのだが、この雰囲気だけは感謝するに値するものではなかった。私は幽霊とか科学的に立証されていないといわれているから、いないと思っているがやはりそういうものをみると、震え上がり、おびえる。つまり、幽霊などというものは苦手だ。

 今にでも幽霊がでそうというこの屋敷で、この夜を過ごすのは私には耐え切れないものであった。

 カタッ…………。小さな音が、屋敷の奥から聞こえたように思う。まさにこのとき、私に追い討ちをかける出来事が起きたのだ。カタッ…………。また、小さな音が聞こえた。私の体は一気に震え上がり、まるでかなしばりにとらわれたように動かなくなった。カタッ…………カタッ…………。聞こえるのは、その音だけ……。

 そのとき驚いたことに、玄関の扉が入るときになったあの不吉な音と共に閉じてしまった。それには思わず私は立ち上がり、扉を開けようとするものの、それは完全に閉じられてしまっていた。

 イロルとポワが不安そうな鳴き声を発する。そして、私も完全に身が震えてしまい、頭がパニックになり一体どうすればいいのかわからなくなっていた。そんなとき、やはり、私を助けてくれたのはポワだった。また、あのあまいかおりが漂い、私の心を落ち着けてくれた。

「ありがとう、ポワ」私はポワの頭をなでながらいった。「さて、私は一体どうすればいいんだろう……」

 心が落ち着いたといっても、私の恐怖心が取り除かれたわけではない。いったいどうすべきかは、心を落ち着けてから数分で考え付いた。だが、どうしてもそれを実行に移したいという気はしなかった。

「ここは一回だもの。奥の部屋にいけば窓ぐらいあるだろうし、そこからでることができるはず……」

 だが、先ほどの奥からの音があるからには行く気にはなれない。しかし、このままここにいても仕方がない。

 私が悩んでいると、突然、イロルが元気のよい声を出したので、少しばかり驚いてしまった。イロルをみると、その目は大丈夫だといわんばかりだった。私とポワは、不安げながらも、そのイロルの自身を信じることにし、入って真正面にある部屋へと足を踏み入れた。

 その部屋は、どうやら食堂らしい。長テーブルが部屋の中央を占拠し、たくさんの椅子が置かれている。テーブルの上には、ろうそくがあり、どれも点火されていた。入って左のほうには、キッチンらしきものがあるようだが、私はそれに目もくれずに窓へと近寄っていった。早くこんなところから出て行きたい、という願いでいっぱいだった。

 そのとき、後ろから声が聞こえたので、私は振り返った。そこには一人のおじいさんがたっていて、屋敷という名の家にふさわしい服装をしていた。

「何をやってるのかね?」それが第一声だった。

「あ、いえ、その……」私は口ごもるしかなかった。

「もしかして、雨宿りかね?」

 ずばっと、それを当ててきたので、私は同意せざるを得なかった。

「だったら今日はここで休んでいくといい。雨はやみそうにもないからね」

「しかし……」

「気にすることはない。さあさあ、まずは料理でも食べるといい」

 そういわれ、仕方なく私は席に座り、花もテーブルの上においた。さっきまで人がいる気配などなかったというのにもかかわらず、いったいどうして今頃になって現れたのだろう? と疑問に思いつつも、料理が出てくるのをまった。

「あの」と私は声をあげていってみた。「入り口の扉が急にしまったんですが、いったいどうしてでしょう?」

 ……沈黙。返事がない……。料理をしている音は聞こえたので、おそらく料理の音でかき消されたのだろうと思い、私はキッチンへと足を運び、そのことについて尋ねようと思った。

 だが、尋ねることなどできなかった。

 料理はされているのだが、そこに人はいなかった。

「誰をお探しですか?」

 ふいに後ろから声が聞こえたので、振り向くとそこには先ほどのおじいさんがたっていた。私はそれへの返答を声に出して言うことはできなかった。私はみていたのだ。キッチンから、誰も出ないことを。このおじいさんが、キッチンに入ってから、一回も出なかったことを。

 このキッチンには隠れる場所はないし、私が来てから背後に回ることなど不可能だ。不可能…………この屋敷で使う不可能の意味がさすのは、おそろしい結果になる。

 私はそれを理解すると、叫び声をあげた。おじいさんの手が私に伸びたので、それをかわしてその場から走り去り、食堂の窓を開けようとするものの、窓は玄関扉同様開かなかった。私は必死に開けようとするものの、やはり開く気配はなかった。その間に、そのおじいさんは私のところへとやってきた。

「どうしたんですか、お嬢さん。いったい、何があったというのですか?」

「早く私をここから出して!」

 それをきいたおじいさんの顔がニヤッとしたのは気のせいではない。私がこうして、驚いているのを楽しんでいるのだ。

「おや、もう雨はやみましたね」

 確かに雨はやんでいた。しかしそんなことは気にするところではない。

「では……あなたも私と」??このときおじいさんの服がじわじわと色が変わっているのがわかった??「一緒に来てもらいましょうか!」

 おじいさんは私を襲ってきた。私はとっさにそれをよけた。中央を支配する長テーブルが邪魔で、通路が狭いため、テーブルの上に乗る形になったが、この際しかたのないことだった。

「イロル、みずでっぽう! ポワ、メガドレイン!」

 二匹は、そのお化けにわざを繰り出したが、その効果はなかった。考えてみれば、お化けは実体のないものだから、わざが聞くはずもない。

 そう思ったとき、私は足元を崩してしまい、テーブルから落ちてしまった。そのとき一瞬脳震とうか何かを起こしたのか、何が起こったかわからず、気がつくとお化けが私に近づいていた。二メートルとない距離まで…………。

 今の私の状況では逃げることはできなかった。私は人生で一番の叫び声をあげた。

 そのときだった。突然、ガラスが割れた音がしたと思うと、一匹のヤミカラスが部屋の中に入ってきた。お化けはそれに気が取られたと思うと、苦痛のような叫びをあげはじめた。それはもう恐ろしい、絶望のふちまでの痛みの叫び…………。

 ヤミカラスが入ってきたのと同時に入ってきたもの。雨がやみ、雲が晴れ渡り、現れた月??月光だった。お化けは月光を浴びたことによって、ここまでの驚愕の叫びをあげているのだ……。

 意外だとは思いつつも、私はテーブルの上においておいた花を持ち、ヤミカラスが壊した窓から外へ出、屋敷から逃げ出した。

 もう屋敷が見えないところまで来ると、一緒についてきていたヤミカラスに私はお礼の言葉をいった。

「ありがとう、ヤミカラス。助けてくれて」

 ヤミカラスはクールにそれを受け止めた。そして、そのヤミカラスは私がヤミカラスをみて叫び声をあげたときにいたヤミカラスのように、こっちにこいというしぐさをやってみせていた。このヤミカラスは、あのときのヤミカラスのようだった。

 前のときとは違い、このヤミカラスに私は今度は従うことにした。先ほどの助けがあって、信用が高まったからである。

 そのヤミカラスが案内してきたのは、遠くに明るい光が照っているハクタイシティが見える場所だった。

「あなた、もしかして……私たちを案内してくれようとしたの? あのときも?」

 驚いたことに、ヤミカラスはうなずいた。そう、あのヤミカラスは、私たちを正しい道へと導いていたのだ。それなのに私はそれをそむき、自分の思うまま歩き出した。そんな私を助けてくれたヤミカラスの心意気や親切心に敬意を表さないわけにはいかなかった。

 私が敬意を表すと、ヤミカラスは先ほどと同じようにクールにそれを受け止め、もう迷うなよとでもいうかのように動作をして、再度ハクタイのもりの中へと入っていった。

 私たちも、ハクタイシティへと向かった。


 それから知った話だが、ハクタイのもりには、「闇の案内人」と呼ばれるヤミカラスがいるということだった。そのヤミカラスは、自分の姿をみて、叫び声をあげ、恐怖心にとらわれた人間を正しい道で、ハクタイシティへと導くのだそうだ。私も実際にそのとおりのことをしたから、導かれたのだろう。

 そして、あの屋敷だが、あの屋敷は昔大変な事件があったという話だが、あくまで噂でいったい何があったかは定かではないらしい。だが、そこにお化けが出るというのは本当だそうで、そのお化けは、自分の仲間を増やすため、屋敷にやってきた人物を襲う傾向があるらしい。

 そのお化けの唯一の弱点というのが、月の光??月光だという。なぜそうなのかまでは不明だが、死ぬときに月光によるなんらかの苦痛を受けたからだという説が地元住民の話だと定着しているらしい。一説では、その人物が狼だったという話もあるらしい。


 さて、ハクタイシティへと無事到着した私は、運んだお花を住所へと届けた。だいぶしおれてしまうだろうと思っていたが、イロルがいてくれたこともあり、水には不足がなかったので、なんとかしおれるのを防ぐことができていた。

「ありがとう」お花を受け取った青年は言った。「確か、君はフナミちゃんだっけ?」

「私の名前を知っているんですか?」私は驚いて聞き返した。

「そりゃあ」??青年は口ごもってから??「店にはよくいってたから」

「そうでしたね。ちなみに、そのお花は、一回焼失してしまったソノオのはなばたけが復活してからの最初のお花なので、大切にしてくださいね」

「うん、大切にするよ」??少し間があいてから??「ねえ……今度一緒に食事でもしませんか?」

 青年の顔は赤くなってきていた。そして、私も顔が少し熱くなってきている感じがしてきた。

「はい」と私は少しもじもじした感じでいった。「よろこんで」

 と、突然、イロルが私の足を引っ張ったので、私はイロルに「どうしたの?」と尋ねた。

 すると、イロルは、元気よく鳴き声を発し、私のモンスターボールを指差した。

「どうやら、このブイゼルは君のボールに入りたいようだよ」青年は言った。

「そっか。イロル、もうこれでお友達は終わり。今度は、パートナーになろう!」

 イロルは、うれしそうに鳴き声を発し、私のボールの中に納まった。すると、青年は言った。

「じゃあ、今度は僕をお友達にしてくれませんか?」

 私はいささか驚いたが、一言言った。

「はい、よろこんで」

あとがき

 WEB拍手のお礼第四弾であり、ポケモン小説版花鳥風月シリーズ第四作です。

 「月」では、前三作と異なり、月の色が薄いのが特徴で、また、恐怖小説に近い状態になっています。月というのは、シリーズ中で一番難しいお題で、メインで記すのは無理なので、このような形になりましたが、結果的にいい方向に出たのではないか、と思います。

 また、今作では、イロルの露出が低いのも特徴で、また、ポワの出番がいつにまして増えています。それは相対的にバランスのいい結果となり、シリーズ中で、ひいきのない、まとまった作品なのではないかと思います。

 「月」は、難しいお題だと前述しましたが、案外月光を使うと決めると、ことがスムーズに進みました。シリーズ初のプロットどおりの展開となり(とはいえ最後のシーンはプロットとはまったく異なりましたが)私の思い描く「月」となったように思います。

もくじ