熱と冷

 ホウエンリーグ。それは、ホウエン地方最高峰のバトルの大会である。ホウエンリーグ優勝者は、ホウエン最強といわれる四天王に挑戦する権利を得ることができ、それは、ホウエンのトレーナーたちの夢であり目標なのである。

 黒髪の少年であるライジというトレーナーは、明後日と迫ったホウエンリーグのエントリー登録を済ませ、割り当てられた部屋に飛び込むと、部屋に一台設置されている大会用のパソコンに向かった。このパソコンでは、大会の参加者の一覧や経歴、スケジュールをみることができ、ライジがみていたのは参加者の一覧だった。

「ジャライ」ライジは画面に映された男の名前をみながら言った。「やっぱり出ていやがったか。去年のリベンジを果たさせてもらうぜ」

 ライジはジャライの名を確認すると、練習をしようと部屋を出た。その途中、ロビーを歩いていると、ライジの名を呼ぶ声があった。ライジは声のするほうを振り向くと、赤毛でラインの整った顔立ちの赤毛の女性がこちらに手を振っていた。

 ライジはため息をついて、彼女の近くに寄った。

「どうしてここにお前がいるんだ、イイラ?」とライジが、イイラと呼ばれた女性をみるのが不愉快だとばかりにいった。

「久しぶりに会って、第一声がそんな言葉なんて、相変わらず無愛想なのねえ、ライちゃん」とイイラはいった。

「お前に会いたいなんて思ったことはないからな。それに、その呼び方はやめろといっておいたはずだ」

「いまさら呼び方はかえられないわよ、ライちゃん。それに、幼馴染じゃない。これぐらい認めてよ」

「お前は何をいっても聞かないんだな」

「何よ、せっかく応援に来てあげたのに、こんなことをいわれなきゃいけない筋合いはないわ」イイラはむっとした。「むしろ、感謝してもらっていいはずだわ」

「誰も応援しに来てほしいなんて一言も言ってない」とライジは吐き捨てた。「それに応援なんて必要はねえよ。俺は応援なんて必要しなくても、強くなったんだからな」

「まったく、へそ曲がりの性格はどこも変わってないのね。いくら強くなったからといっても、なめてかかるとまた負けちゃうわよ」

「ふん、負けるはずがないさ。バシャーモはしっかり鍛えたし、ほかのポケモンだって鍛えた。それに、新しいメンバーがいるんだ」

「ほう、新しいポケモンですか」

 と、後ろから不意に声がしたので、ライジは後ろを振り向いた。ライジの目に映ったのは、いかにも知的といったタイプのめがねをかけた、ブロンドの髪をした優しそうな男の子だった。

 その男をみた瞬間、ライジは前回のホウエンリーグの準決勝のバトルを思いだした。白熱した攻防戦。一個のミスも許されぬ、事実上の決勝戦といった類のバトル。そのフィールドの傍らには、この知的そうな男が立ち、その反対側にはライジがたっていた。互いに残るポケモンは一対一。最後に両者が出したのは、バシャーモだった。

 互いにミスはひとつもなかった。しかし、ミスがなくても勝負の結末はやってきた。勝利したのは、オウムがえしを効果的に使った、知的そうな男――ジャライのバシャーモだった。かくして、決勝戦への切符はジャライが手にし、ライジは敗退したのである。

 それを思いだすと、ライジはむかむかしてきた。彼のエースであったバシャーモが、こんな男に負け、準決勝敗退なんて結果になったのが、許せなかったし、ジャライの風格がライジの癪に障ったのだ。その癪に障ったジャライの風格が、この再会でも、残っていて、ライジはさらにむかむかしてきた。

「そうさ」とライジはいった。「お前をぶったおすためのポケモンさ、このいい子ぶりやろうが」

「ちょっと、ライちゃん、その言い方はないんじゃないの?」とイイラがいった。

「かまいませんよ」とジャライはいった。「ライジさんにそのようなことをいっても、変わらないでしょう」

「お前にそんなことをいわれたくねえな」とライジ。「お前もまったくかわってねえ。そのむしゃくしゃする態度がな」

「それで」とジャライは話を流した。「新しいポケモンでわたしを倒すというようですが、その自信がどこから来るのか伺いたいものですね」

「お前に話す義理はねえよ。話せるのは、お前があいつに倒されるってことぐらいなものさ」

「まったく、答えになってませんね」とジャライはため息をついた。「まあ、せいぜいがんばってください。わたしといつバトルすることになるかはわかりませんが、わたしと戦うときに、その威勢がなくなっているなんてことはないよう、気をつけてくださいね。あなたとのバトル楽しみにしていますよ」

 ジャライは、ライジとイイラに会釈すると、その場を立ち去った。

「ねえ、本当にあんなことをいって大丈夫だったの?」とイイラが尋ねた。

「あんなやつに負けるわけねえだろ」とライジは怒鳴るようにいった。「俺が前回のリーグで負けてから、いったいどんな旅を今年してきたのか、その成果をあいつに見せ付けてやる」

 ライジは外に出ると、これまでのことを思いだしていた。彼は、前回のホウエンリーグに出場し敗退すると、再びホウエン地方の各地ジムを回り始めた。その旅は、四ヶ月で終わり、リーグの参加権を取得していた。それなのに、明後日に迫った今日にエントリーをしてきたのには、彼のポケモンたちのパワーアップをするという旅をしていたからだった。

 彼はその旅の間に、ホウエンをくまなく旅をして回り、彼のポケモンたちを鍛えていた。それは常人の何十倍というトレーニングで、一日中バトルという日もあった。それ故、どんどんパワーアップしたし、その間に新しいポケモンもゲットし、更なる強化をしてきたのだった。

 その過酷なトレーニングをこなしてきたのも、すべてはジャライを倒すという、執念に近い目標のためだった。それなのに、ジャライにあんなことをいわれれば腹を立てるのも当然だった。

 ライジは、最終調整を行いながらも、その苛立ちをかき消すことはできなかった。


 ホウエンリーグのシステムは至ってシンプルである。予選リーグは、三十二個のブロックに自動で割り振られた参加者どうしが、リーグ戦形式で戦い、各ブロックの勝率の一番高いものが、決勝トーナメントに駒を進める。この予選リーグは、複数の会場で行われ、五日の日程で行われる。

 ライジは、全戦全勝という結果を残して、予選リーグを余裕で通過した。彼の日程は、五日もかからず四日で終了することになった。幸か不幸か、ジャライとはブロックが異なり、予選でジャライとあたることはなかった。

 予選リーグ五日目。その日、ライジの部屋に一通の差出人不明の封筒が届けられていた。

 彼はその封筒が届けられている様子をみて、すぐに去年の大会で負けたときのことを思いだした。去年の大会で負けて彼が部屋に戻ったとき、この日のように差出人不明の封筒が届けられていたのだ。その中には手紙が入っており、地獄の神がいるというヘル・フォレストへ行くきっかけを作った。

 ライジは封筒を開けた。去年と同様にその中には手紙が入っていた。

 手紙の内容は簡潔だった。

 ライジ様

 ホウエンリーグのはずれにある小さな洞窟に、強い怪獣のごときポケモンがいます。

 何もかもが同じだった! ただ違うのは行く場所だけ。それ以外は、封筒といい手紙の内容といい、ライジの覚えている限りでは、封筒と便箋も、すべて去年と同じだった。

 強い怪獣のごときポケモン――ライジはいったいどうしようか、と考えた。既に決勝トーナメントに出場を決めている彼は、やらなければいけないことはなかった。去年の手紙は、ヘル・フォレストへの導きであり、結果として彼の新しいポケモンを入手するに至った。と、なれば今回のこの手紙も、少なくとも悪い影響は及ぼすまい、と考えられる。

 しかし、もしそのポケモンを捕まえることができたとしてもどうしようというのだろう? 決勝トーナメントは明後日と迫っているのだ。その間に、そのポケモンを手なづけることなど厳しいだろう。いくら強くても、手なづけられないポケモンでは、勝つことはできないのだ。

 そのとき、ふと、ライジの脳裏にジャライの顔が浮かび上がった。憎たらしい柔和な笑顔。冷静かつ頭脳明晰といわんばかりの風格。そして、ジャライが最後に残していった憎たらしい言葉……。それを思いだすとライジはむしゃくしゃしてきた。

「絶対に負けられない」とライジはつぶやいた。「あんなやつには絶対に……」

 ライジは、手紙を放り投げると、机の上においてあったホルダーを手に取って、部屋を飛び出した。

「きゃっ!」

「おおお!?」

 飛び出すと、イイラと鉢合わせた。進行方向にいたイイラに、ライジは止まらざるをえなかった。

「どうしたの、ライちゃん?」とイイラは驚いて言った。「そんなにあわてちゃって。それに、傘も持たないと、雨が降ってくるよ」

「傘なんか必要ない。あいつを倒すポケモンを捕まえに行くんだからな」とライジはそう言って駆け出した。

 ホウエンリーグのはずれにある洞窟というのは、とてもわかりにくい場所にあるのだろう、とライジは考えていた。強い怪獣のごときポケモンがいるとなれば、人目に触れるはずなのに、ほとんど知られていない。となれば、わかりにくい場所にいるとしか考えられないからだ。そのため、最初からそのような場所にあたりをつけたからか、容易にその洞窟を発見できた。その場所は、普通の道からは見えず、海から見ても見つからぬ場所にあったのだ。

 その洞窟には、確かに怪獣のごときポケモンが存在していた。そのポケモンは、親と子供で一体のポケモンとされている、ガルーラだった。

「ガルーラか」とライジはつぶやいた。「ホウエンでみれるとは歓迎だぜ」

 ガルーラはお腹の中に、薄紫色のかわいい子供を入れて育てているポケモンだ。ここにいるガルーラもその子供を連れており、決して広いとはいえぬこの洞窟の中を遊びまわっていた。ガルーラはその姿を見つめ、微笑んでいる。

 ライジはこの光景をみて後ずさった。この平和的な光景を壊していいものか、と反射的に感じたのだ。彼はここまで意気込んで来たが、その意気込みはもうどこかに消えてしまい、その光景をじっと眺めているだけだった。

 その時遊んでいた子供が転んだ。泣き出す子供に、親であるガルーラが子供をあやそうとしたとき、ライジとガルーラの目が合った。すると、ガルーラの目が鋭くなり、素早くお腹の袋に子供を回収した。ライジに鋭い一瞥を向け、口に強力なエネルギーを集結させ、そのエネルギーを放出した――はかいこうせんである。

 突然の出来事に慌てたライジは、とにかくはかいこうせんをその場にかがんで回避するしかなかった。ガルーラは動き出した。次の攻撃を仕掛けに入っているのを見ると、ライジはボールを取り出し、ノクタスを登場させ、ミサイルばりの指示を出し、ガルーラを攻撃した。

 ガルーラ側は広くない洞窟のため、そのミサイルばりをガルーラはかわすことができない。ガルーラはミサイルばりを受けると、また走り続け、ピヨピヨパンチで攻撃を仕掛けてきた。ライジはそのピヨピヨパンチに対して、ニードルアームで応戦させた。だが、ガルーラのピヨピヨパンチのほうが強く、ノクタスは後退した。

 そのとき、突然、叫び声に近いものが後方から聞こえてきた。ライジはとっさに振り返ると、イイラが手を口にあてて驚きいっている姿があった。

「イイラ!」とライジは叫んだ。「どうしてこんなところに……」

 と、その間にノクタスにピヨピヨパンチが襲い掛かった。ノクタスはそのピヨピヨパンチを受け止めたが、ダメージを受けてしまった。ライジはすぐさま、ノクタスのほうに向き直り、ミサイルばりの指示を出した。

 ガルーラはミサイルばりを受けたものの、その場にとどまった。ライジはすぐにニードルアームを指示し、ガルーラにダメージを与えると共に後退させた。

「いったい……どういうことなの、これは?」とイイラが言った。

「知らねえよ。あいつが急に襲ってきたんだ!」

「襲ってきたって……ライちゃん、いったい何をしたの?」

「何もしてない。ただ、ガルーラが俺を見た瞬間に……」

 ライジは言葉を中断した。ガルーラがはかいこうせんを発射しようとしているのがわかったからだ。ライジはノクタスにミサイルばりの指示を出したが、ガルーラのはかいこうせんをとめるにはあまりに弱すぎた。ガルーラはミサイルばりを気にせず、そのままはかいこうせんを発射した。

 ライジはとっさにノクタスをボールに戻し、イイラを横に引き倒した。彼らがまだ地面に倒れこむ前に、はかいこうせんが後ろを通過していった。

「大丈夫か、イイラ?」とはかいこうせんを回避すると、ライジは尋ねた。

「ええ大丈夫よ。それより、ライちゃんは大丈夫?」

「大丈夫だ。それより、ガルーラを――――」

 ライジは立ち上がろうとしたその瞬間、左足に鋭い痛みが走り、地面に倒れてしまった。イイラはライジに手をかけようとすると、その目に彼の左足が映された。彼の左足は、大きな傷ができており、そこから大量の出血があることのがわかった。さらに、ライジの額を見ると、血が彼の顔を伝って流れていることにも気づいた。

「ライちゃん、その怪我……」とイイラはつぶやくことしかできなかった。「私のせいだわ……」

「お前のせいでもない。大丈夫だ」ライジはそういったが、つらそうな表情をし、つらそうにあえいでいた。「それより、ガルーラを何とかしねえと……」

 ガルーラは、彼のことはお構いなしに、ゆっくりと近づいてきていた。ライジは立ち上がろうとするが、足の痛みがひどく立ち上がることすらもできない。彼は、ガルーラのほうに顔を向け、ホルダーから別のボールを取り出し、それを投げた。その場に登場したのは、バシャーモだった。

「もうやめて!」イイラはなきそうだった。「そんなことをしている暇はないわ。早く病院にいかなきゃ……」

「その前にこいつの処理だ。バシャーモ、スカイアッパー!」

 バシャーモは走りだしガルーラに接近する。ガルーラはそれをみて、ピヨピヨパンチを使ったものの、バシャーモはそれを綺麗にかわしスカイアッパーをクリティカルヒットさせた。こうかはばつぐんだった。ガルーラはその場に倒れこんだ。

「これでガルーラはしばらくは追いかけてこない」とライジはいった。「早くここから出よう――――」

 ライジはそう言い切ると、頭をがくんと落とした。イイラはライジに話しかけるが、返答することはなかった。


 ライジが再び目を覚ました場所は、洞窟ではなく病院の一室だった。彼はベッドに横たわり眠っていたのだ。

「大丈夫、ライちゃん?」

 とイイラの尋ねる声が聞こえた。ライジは顔を上げてみると、イイラがいることがわかった。

「大丈夫だ。――そういうお前は?」

「私も大丈夫よ。かすり傷程度で済んだんだけど……でも、ライちゃんが…………」

「大丈夫っていっただろ。ま、とりあえず死ななかったのはよかったな」

「本当にあなたは運がいいのね」

 と、突然入り口のほうから声が聞こえた。ライジとイイラが振り返ると、ドアが開く音はせず、カーテンの後ろから、女性が出てきた。

 ライジはその女性をみてあっと驚いた。ライジとその女性とは面識があったのだ。

「あなたはヘル・フォレストの……?」とライジ。

「覚えてもらえて光栄だわ、ホウエンリーグに二度出場する実力派トレーナーにね」と女性は言った。「あのときは名前を言わなかったけど、私の名前はライラっていうのよ」

 ライジは去年の手紙を元に、ヘル・フォレストへと行ったことがあった。そのときに、出会ったのが――名前までは知らなかったが――ライラだった。ライラは、ヘル・フォレストにいるという地獄の神を監視する役目を預かっていた。ライジはそのときに彼女と出会ったのだ。

「どうして、こんなところにいる?」とライジは相変わらず無愛想だった。

「あなたが、ホウエンリーグに出場すると聞いてきたのよ。本当はもっと早くに来たかったんだけど、いろいろあって、やっと来たと思ったら怪我をしてるとかで、驚いたわ。それにしても、あなたは運がいいわよね。ヘル・フォレストのときもそうだったけど」

「運も実力のうちさ。あ、イイラはこの人を知らなかったな――――」

「知ってるわ」とイイラはつぶやくようにいった。「私のお姉さんよ」

「お姉さんだって?」とライジは面食らってしまった。「イイラにお姉さんがいたなんて知らなかったな」

「話したことはなかったもの。それにライちゃんが、そういうことを話す機会をくれないから」

「そうそう、ライジくん。決勝トーナメントの組み合わせが発表されてるわ」とライラが言った。

「トーナメントが発表されてる?」

 そこでライジは再び驚いてしまった。トーナメントが発表されたことに驚いたのではない、病室に気持ちのよい陽射しが差し込んでいるのに気づいてだった。ライジがガルーラを捕まえにいったときは雨が降りそうな天気だったのに……。

「今日は何日だ?」とライジは詰問口調で尋ねた。「俺は何日寝てたんだ?」

「一日半ぐらい寝てたかしら」とライラ。「今日は、予選リーグ最終日の次の日のお昼よ」

「なんだって! ということは、明日が決勝トーナメントってことなのか?」

「そうよ」とライラは言いにくそうに答えた。「それで、決勝トーナメントの組み合わせなんだけど、ライジくんは」――とライラは一瞬と惑うように間をあけた――「初日の第一試合よ」

 イイラは叫びに似た声を漏らした。明日にライちゃんが、決勝トーナメントに出場しなければいけないなんて……。ライジの怪我は、今日だけで治るものではないのだ。頭を打っていたし、足も大きな傷ができていて、立つことすら大変なはずなのだ。

 ライジはそのとき、イイラの目に涙があふれているのに気がついた。もう今にでも泣きそうになっている彼女をみて、ライジは驚いてしまった。

「お前、いったいどうしたんだ?」とライジ。「どこか痛いのか?」

「そうじゃないの……」とイイラは涙声で言った。「ごめん、ライちゃん…………」

「何で謝るのさ? お前が謝る意味がどこにあるんだよ?」

「ライちゃんをこんな目に合わせたのは、私なのよ。私のせいなのよ」

「どこがお前のせいなんだ? 俺がガルーラが襲ってきたときに逃げればよかっただけの話だ。悪いのは俺で、お前には関係ない」

「そうじゃないの。ライちゃんをあそこに行くように手紙を送ったのは、私なのよ」

 ライジは驚き、イイラを凝視した。彼女は今にも泣きそうになってはいるが、顔色が悪いわけではないし、変な振る舞いをしてもいない。

「何を言い出すかと思えば」とライジはごまかした。「疲れてるんじゃないのか、イイラ?」

「いいえ、これは本当の話なの」イイラの口調には嘘偽りない響きがこもっていた。「あそこに行くように仕向けたのは私なのよ……ライちゃんを傷つけたのは、私なのよ……」

「どういうことなんだ? いったい――――」

 ライジは口をつぐんでしまった。イイラの言っていることが信じられなかった。それにイイラがどうして、こんなことをしたのかが、まったくわからなかった。

「ライちゃんに本当のことに気づいてもらいたかったの」とイイラは言った。やはり涙声である。「前のリーグで負けてから、ライちゃんはジャライさんを倒すことに執着したことが、私にはすぐわかったの。ライちゃんはそうなると、手が付けられないことも私は知ってた。もしその状態で、ライちゃんが次のリーグに来たとしても、ジャライさんを倒すことができないのがわかったわ。だから、私はライちゃんが元のライちゃんに戻ってくれるように、あの手紙を送ったの。

 ライちゃんのその状態だったら、強いポケモンがいるとなれば行くと思った。だから、私はそこに送ればいいと思った。でも、ただ強いだけじゃダメということも知ってもらわないといけない。そのとき、ライラお姉さんに聞いていたヘル・フォレストに、行ってもらうことにしたの。あそこには、地獄の神と呼ばれているけど、美しい親子愛のあるポケモンがいたから。その愛に触れ合ってほしかった。ただ厳しくてもダメ。優しさが無ければダメ、ということを思いだしてほしかった。ライちゃんなら絶対に気づいてくれると思ってた。だって、ライちゃんは表は冷酷みたいだけど、根は優しいんだもの。

 でも、その条件のヘル・フォレストは危険なこともライラお姉さんから聞かされていた。だから、ライちゃんがもし危険な目にあったら、ライラお姉さんに助けてもらうように頼んでおいたの。それと一緒に、ライちゃんがそれに気づいて、元のライちゃんに戻ったかどうかを知りたかった。ライちゃんが無事にそのことに気づいたことを聞いて、私はほっとしたの。

 ロビーでライちゃんと会えて、私は元のライちゃんであることに、さらにほっとした。でも、ジャライさんと話したとたんにライちゃんは別のライちゃんになってしまった。それでも、何とかして思いだしてくれるだろうと思っていたけど、予選リーグの戦いをみて、思いだしていないことがわかった。

 だから、私はあの場所にライちゃんを行くようにしたの。前回と同じ方法で。そうすれば強いポケモンがいると思ってくれるだろうと思ったから。でも、ヘル・フォレストのときと同じで、ガルーラの親子愛についてライちゃんには知ってもらいたかった」

「それで、あそこであんな騒動になっちまったってことか」とライジは自嘲する口調でいった。「なんてなさけないやつだ! イイラの思っていたことに、全然気がつかなかったなんて……」

「でも、ライジくん、これだけはわかってあげていてほしいの」とライラが言った。「イイラはあなたのためを思って、こんなことをしたの。あなたが再び、このリーグの地でジャライくんに負けないために。あなたを、このリーグで優勝させるためにやったのよ」

「わかってるさ」――ライジはイイラのほうをみた――「面白いじゃねえか、イイラ。この状態で出場して優勝すれば、それこそ大事だ。こんなことをしたやつは誰一人もいないんだぜ」

「でも、そんな状態じゃ戦うことなんて無理よ……」とイイラ。

「そんなことはない。戦えないなんてことはないんだ。俺は優勝するぜ、イイラ。お前の気持ちを絶対に無駄にはしない。それに気づけなくてごめん。そして、……あ、ありがとうな、イイラ」

 イイラはこれまでに溜まっていた涙が一気にこぼれ、その場に泣き崩れてしまった。ライラは彼女を抱擁し、彼女を慰めていた。ライジの病室には、しばらくその泣き声が響いていた。


 かくして、ホウエンリーグ決勝トーナメントは始まった。

 ホウエンリーグ決勝トーナメントのルールは予選リーグとは異なり、トーナメント制で六対六のフルバトルで行われる。どちらか六体が戦闘不能にさせることができれば勝利だ。

 ライジは、初日の第一試合に姿を現した。その姿はほとんどいつものライジだったが、頭には見えるように包帯が巻かれていたし、隠れてはいたが足にも包帯が巻かれていた。しかし、容姿とは異なり、頭の痛みはそれほどでもなく、一番痛いのは足だった。医師も、長時間立っているのは決してよい状態ではないので、場合によってはドクターストップをすることもある、と言っていた。さらに、長期戦になると、足の痛みが増し、判断力が鈍るおそれもあった。

 このことから、ライジのバトルスタイルにいささかの変化が見られた。元来「速攻型」であるライジだが、その中には的確なサポートが含まれており、速攻重視型というのが、妥当である。しかし、この日のバトルからライジのバトルは、完全な速攻型だった。先頭を切るライボルトに的確に指示を出し、びしびしと相手の防御が整うころには、すでに戦闘不能になっていた。

 ライジはこの長期戦に持ち込まないバトルで、無事にベスト八に収まることに成功した。しかし、足は無事でなかった。本戦のバトルだけではなく、練習時間もあるため、総合的に長期戦を戦ったときと同じ負荷が、足に掛かっていた。安静にしていても、一日安静にしていなければ、完全に疲労が回復するということはなく、ベスト四をかけるバトルから、足の痛みが大きくなり、鋭い痛みがこれまでより早いタイミングで来るかもしれない、と医師から告げられた。

「でも、ドクター」とライジ。「これまでと同じように短期戦を続ければ、なんとかなるんでしょう?」

「そのとおりだが、短期戦とはいえど、足には長期戦と同じくらいの負担が掛かっている。立つことはおろか、判断することができないかもしれないから、その点は気をつけなければいかん。私としては、これ以上のバトルは控えるよう勧めるがね――」

 当然のことながら、ライジはバトルを控えるつもりなどなかった。彼は、ベスト四のバトルに望むことになったのだ。


 ベスト四をかけたそのバトルは、ライジの速攻型が裏目に出てしまう形になった。相手トレーナーは、ライジのバトルパターンを研究した、ジャライと同じく冷静型のトレーナーだった。速攻型のライジは、それを崩してしまえばよかったのだが、それよりも先に、鉄壁が張られてしまったのだ。

 そこで、ライジは焦らずに元のバトルスタイルに戻した。ライジのトップバッターであるライボルトには、これまで使わせていなかったじゅうでんを使わせて、より強力な十まんボルトで、相手の鉄壁を崩していく。パワーアタッカーのポケモンたちが、その鉄壁を完全に崩すのは時間の問題だった。

 しかし、その時間は足にも迫っていた。あともう少しというところで、突如ライジの足に鋭い――まるで切り裂かれたような――痛みが襲ったのだ。その痛みのせいで、ライジはその場にひざまずかなければいけなくなった。しかし、そこは彼のポケモンがカバーし、相手のポケモンを倒すことによって、ベスト四入りは決定した。だが、ベスト四入りの代償は大きかった。


「さすがにつらいな、ここまで来ると」とライジは言った。

「仮にもホウエンリーグのベスト四よ」とライラ。「生半可な実力や判断力を持つ人じゃ、ここまではこれないもの。ライジくんも、その体でここまで来れたということは、相当な実力者よ。ただ、油断や小さなミスで勝敗を左右するところまで来てるから、これから先、もっと気を引き締めないと」

「そんなことわかってる。ところで、イイラはどうした?」

「ライジくんの試合が終わるとどこかに行ちゃったのよ。まあ、そのうち帰ってくるわよ。あの子も子供じゃないんだから」

 そのイイラが、ライジの前に姿を現したのは、ライラと話してから何時間も経った頃だった。

 病室に入ってきたイイラを見て、ライジははっとし、いったいイイラはどうかしたのだろうか、といぶかしげた。イイラは陽気な性格ではあるが、内気な面もある。しかし、このときは完全に内気な面が前面に出ており、普段陽気なイイラの様子とは、まったく違った。

「どうしたんだ、イイラ?」とライジは尋ねた。

「大丈夫なの、ライちゃん?」とイイラは逆に尋ねてきた。

「何だ試合のときのことを言ってるのか? それなら大丈夫さ、ドクターも、まだ大丈夫だって言ってたしな。まあ、そのせいで練習はできなかったが」

「ごめん、ライちゃん」とイイラは言った。つぶやくほどの小さな声だった。

「謝る必要はないって、前に言っただろ。これはお前のせいじゃないんだ」

「でも――」

「それに」とライジはすばやく言った。「俺は言ったはずだ。必ず優勝してみせるってな。それとイイラ、俺とこの地で最初に会ったときお前はなんて言った?」

「応援に……」

「そうだろ? だったら……」少しうつむく。「……応援をしてくれよ。お前の精一杯の応援を」

 その言葉は言いにくそうだった。しかし、その言葉には、嘘偽りのない意味が含まれていることがイイラにはわかった。

 こうなったのもすべて私のせいだ、とイイラはその目を見て思った。でも、ライちゃんはそう思っていない。むしろ、私の応援に期待している。ライちゃんを傷つけた本人である、この私を。

「ライちゃん」――イイラはそう言って少し間をあけた。――「ありがとう」

 ライジは照れくさそうに、イイラから再び視線を外した。


 決勝戦への切符をかけた戦いでも、ライジは短期戦に持ち込むことはできなかった。しかし、このときのライジは違った。前回、このことを経験していたことから、すぐさま元のバトルスタイルに戻したことで、ライジの強さがまるでスコールの如く発揮された。そのパワーに、相手の実力派トレーナーも、圧倒され、決勝戦の切符はライジの手に収まった。

 次の準決勝では、ジャライが登場した。その結果は、彼もライジと同様に決勝戦の切符を手に収めた。かくして、ホウエンリーグ決勝戦に進出したのは、前大会の準優勝者とベスト四入りを果たした、実力派トレーナー同士の戦いとなったのだ。

「ついにここまできたぜ、イイラ」とライジは言った。「あいつをぶったおす機会がやっときたんだ」

「実際に倒せるかどうかは、やってみなければわからないけどね」とイイラ。

「あんなやつは簡単にぶったおしてやるさ。そして、俺は必ず優勝するぜ」

「うん、がんばってね、ライちゃん」

「しかし、いったいその自信がどこから来るのか、わからないわね」とライラが言った。「どうして、そこまで優勝できると豪語できるの?」

「俺はこれまでの旅でパワーアップしたんだ。あの野郎を倒すほどのな」とライジは言った。「それに、俺は約束をあんたともしただろ? 俺は、あいつで必ず優勝してみせるって」

 その言葉を聞いて、ライラはヘル・フォレストで、ライジと別れたときのことを思いだした。そのときライジはこう言ったのだ――あのあほんだらライバルを倒して優勝する、と。まるで、ジャライと決勝で戦うかのを予測するかのように。

「そうね。だったら、なおさら優勝しなきゃいけないわね。約束をやぶらないためにも、目標を達成するためにも」

「当然さ。俺は必ず優勝するぜ。それに――――」とライジは口をつぐんだまま、その先は言わなかった。


「その体でよくここまでこれたものですね」翌日のリーグチャンピオンを決定する、大事な控え室の中で、ジャライはライジに話しかけた。「あなたの自信がどこにあったのか、いまだにわかりませんが、その執念が強いことだけはわかりましたよ」

「ふん、お前をぶったおさなきゃ、俺の腹の虫がおさまんないんだよ。お前みたいなやつに負けたままでいられるか!」

「君の準決勝の試合、拝見しましたよ。大分苦戦されていたようですね。前回の大会から何も成長していない、ということを表しましたが、それでわたしを倒すという自信はどこにあるのか、知りたいのですが」

「お前には関係のない。とにかく、俺をぶったおす。そして、俺が優勝する。ぶざまな姿をこの地でさらすのを覚悟しておくんだな」

「あくまであなたの言っていることは想像です。想像は所詮想像。想像を現実にするのは難しい。わたしは、再び準優勝で甘んじるつもりはありません。あなたを必ず倒し、想像は想像のままにして差し上げますよ。おっと、そろそろ時間のようですね。では、白黒はっきりと決めましょうじゃありませんか」

 決勝会場は大歓声に包まれていた。客席は満員、立ち見客もおり、テレビ放送で、ホウエンの人々が、この決勝を見守っている。そう、ここはまさにホウエン一のトレーナーを決定する夢の舞台なのだ。それに今年の決勝進出者である二人は、前回の大会のベスト四と準優勝者。その実力者たちの戦いは激しいものになるに違いない、という期待もあった。

 ライジとジャライが、会場内に姿を現し、フィールドに立った。

「これより、ホウエンリーグ決勝戦を行います」と、審判の声がマイクを通して会場に響いた。「ルールは、六対六のフルバトル。時間制限はなし。交代は自由」

「思い切って行かせてもらうぜ」とライジはつぶやいた。

「お手柔らかに……とは、いきませんね」とジャライはつぶやいた。

 そして、ついに、ホウエンリーグ決勝戦――ホウエンリーグチャンピオンを決定する、戦いが始まった。

 ライジはノクタス、ジャライはヤルキモノを登場させた。

 ジャライは、ライジがライボルトで始めてこないことは予測していた。でんきタイプのライボルトの弱点は、じめんタイプのポケモンである。しかし、不利なことがわかっていて出すことはないことが、ジャライにはわかっていた。ライジの執念……これは、想像以上に激しいものなのだ。

 逆にライジもこうなることを予期していた。ノクタスを出したのは、ジャライが深読みをし、じめんタイプを出してくれれば有利である、という点であったが、こうならなくても、彼には十分だった。

 ノクタスはミサイルばりを放った。ヤルキモノは、すばやくそれを回避し、ノクタスに向かって走り出した。

「ノクタス、ニードルアーム!」

「ヤルキモノ、きりさくだ!」

 ノクタスは、向かってくるヤルキモノにニードルアームで攻撃を仕掛けた。しかし、ニードルアームは、振りが大きい。その隙を狙いヤルキモノは、きりさくでノクタスを攻撃し、自らはニードルアームをかわした。

 さらにヤルキモノはすばやく方向転換をし、つばめがえしで攻撃した。こうかはばつぐんだった。

「ノクタス、やどりぎのタネだ!」

 やどりぎのタネはヤルキモノを捕らえた。体が締め付けられたヤルキモノはそのスピードが封じられた。さらに、やどりぎはノクタスに体力を回復させている。しかし、それも一瞬のことだった。ヤルキモノはすばやくきりさくで、蔦を切断し、身を軽くすると共に、ノクタスの回復を防いだ。

 ヤルキモノは蔦を切断すると、つばめがえしの体制に入った。ノクタスはそれに向かえ打つため、だましうちを使った。両者の攻撃は相打ちとなったが、ノクタスのほうが完全に不利であったのは疑いない。

 ヤルキモノはビルドアップを使って、こうげき力とぼうぎょ力をパワーアップさせた。その間に、ノクタスはミサイルばりでヤルキモノを攻撃したが、ヤルキモノはすでにぼうぎょ力を高めていた。

「ノクタス、ニードルアーム!」

「ヤルキモノ、きりさく!」

 再びヤルキモノとノクタスは、走り出した。隙の多いニードルアームが放たれる前に、ヤルキモノはきりさくの体制にはいった。しかし、入ろうとしたその瞬間、ニードルアームは突然、ヤルキモノの頭上に落ちた。

「同じ手はくらわないぜ」とライジは言った。「ノクタス、ミサイルばりだ!」

 ヤルキモノはきりさくを使うことなくその場に倒れ、ノクタスは至近距離からミサイルばりで攻撃した。至近距離というのはノクタスに有利のように見えた。しかし、実際はビルドアップを使っていたヤルキモノのほうが有利だった。ヤルキモノは、ミサイルばりを受けつつも、起き上がり、つばめがえしでノクタスを攻撃したのだ。

 こうかはばつぐんである。ノクタスは戦闘不能となった。

 ライジはノクタスをボールに戻すと、パッチールを登場させた。

「パッチール、サイコキネシスだ!」

 サイコキネシスはすばやくヤルキモノを捕らえた。ヤルキモノはもだえるが脱出することができず、地面にたたきつけられた。続いて、パッチールはピヨピヨパンチで攻撃を仕掛けてきた。ヤルキモノはそのピヨピヨパンチを瞬時にかわすと、きあいパンチで攻撃を仕掛けた。しかし、それはサイコキネシスによって封じられてしまった。

「ヤルキモノにきあいパンチはつき物だぜ、ジャライ」とライジ。「パッチール、上にあげて一気に降下だ!」

 ヤルキモノはサイコキネシスで上空に上げられると、サイコキネシスで地面にたたきつけられた。ヤルキモノは戦闘不能になった。

 ジャライはヤルキモノを戻した。そして、次に出してきたのは、シザリガーだった。

 このときも先制したのは、ライジのパッチールだった。パッチールはシザリガーに対して、フラフラダンスを放った。しかし、シザリガーはふらふらしているパッチールに、バブルこうせんを直撃させ、フラフラダンスの効果をなくした。

 続いて、シザリガーはつるぎのまいを使った。と、共に走りだし、クラブハンマーでパッチールを攻撃する態勢に入っていく。パッチールはどう動くか判断できないふらふらで、シザリガーのクラブハンマーをかわした。かわすとすぐさまフラフラダンスを使い、シザリガーをこんらん状態に陥れることに成功した。

「パッチール、ピヨピヨパンチだ!」

 こんらん状態になってしまえばこっちのもんだ、と言わんばかりにライジはピヨピヨパンチでシザリガーを攻撃した。と同時に、ジャライはシザリガーをボールに回収した。

 少し遅れたな、とライジはにやりとした。

 ジャライの次なるポケモンは、ソルロックだった。ライジは先ほどの笑みを失わせざるを得なかった。――パッチールではソルロックを倒すのは難しい。ここは、ソルロックの出方を見よう……。

 パッチールは、さいみんじゅつでソルロックをねむり状態に陥れることを試みた。ソルロックは回転し、それを綺麗にかわすとソルロックはサイコキネシスを使ってパッチールの動きを封じてきた。ソルロックは、パッチールを上空にあげると、そのまま突き落とした。と、すぐさまソルロックはいわなだれで攻撃をしてきた。倒れているパッチールは、突然のことでいわなだれをかわすことはできなかった。

 ライジはパッチールを回収せざるを得なかった。幸いまだ戦闘不能ではないため、パッチールにはいったん休憩させることができる。

 ライジは次にトドゼルガを登場させた。いわタイプのソルロックに、トドゼルガは有利である。しかし、トドゼルガはこおりタイプも持ち合わせている。いわなだれに当たれば大きなダメージを負うこととなる。

 トドゼルガは、みずのはどうを使った。ソルロックは、先ほどのさいみんじゅつをかわすようにして、みずのはどうをかわすと、じしんを使ってきた。不意のじしんだったため、トドゼルガはかわすことはできなかった。

「トドゼルガ、もう一度みずのはどうだ!」

 ソルロックは、みずのはどうをもう一度かわした。トドゼルガはさらにみずのはどうを放ち、放ち終わるとれいとうビームでみずのはどうを凍らせ、空に向かっていく氷の橋を作り出した。

 それを作りだすと、みずのはどうをまた放った。ソルロックは先ほどからの鮮やかな動きで、それをかわした。ジャライはこのタイミングで、じしんの指示を出した。ソルロックはじしんを使う体制に入ったその瞬間、トドゼルガはみずのはどうを放ち、唐突なそのみずのはどうにかわすことはならなかった。こうかはばつぐんだった。

「ソルロック、サイコキネシスだ!」

 ソルロックはサイコキネシスを試みた。しかし、対象が例の氷の橋の裏に隠れてしまい、サイコキネシスは失敗した。ジャライは、じしんを指示し、氷の橋を破壊にかかった。じしんが使われたことによって、氷の橋は崩壊していった。当然ながら、その氷の橋はフィールド上にばら撒かれていく。

 しかし、その中にトドゼルガの姿がなかった。ジャライはあたりを見渡した。そこにはやはりトドゼルガの姿がない。

「れいとうビーム!」

 ジャライははっとして、上空をみた。なんとあの重たいトドゼルガが上空にいた! それに気づいたときには、すでにれいとうビームは使われており、ソルロックはそれをかわすことができなかった。そして、トドゼルガはその重たさによる急降下を使って、アイアンテールでソルロックを攻撃した。そのとき、突然ソルロックは光りだした。と思うと、ソルロックは爆発した――だいばくはつを使ったのだ。

 爆風が散り、トドゼルガは上空に吹き飛ばされ、その落下とだいばくはつの威力によって、戦闘不能になった。ソルロックも戦闘不能になった。

 両者ボールにポケモンを戻し、それぞれ別のボールを取り出した。フィールドに続いて登場されたのは、ライジのパッチールとジャライのブーピッグだった。

 ジャライはミスをした、と思った。ライジがライボルトを出してくると思っていたのである。となれば、シザリガーを出すわけにはいかない。しかし、ライジはライボルトを出さなかったのだ。

「ブーピッグ、サイコキネシスだ!」

「パッチール、サイコキネシス!」

 共に、サイコキネシスに引っかかってしまった。両者はサイコキネシスを維持することができず、サイコキネシスは事実上相打ちで終わった。パッチールは、サイコキネシスから解放されると、さいみんじゅつを使ってきた。ブーピッグは、それを尻尾を使ってジャンプしてかわした。と共に、とびはねるでパッチールを攻撃した。

 パッチールは反撃するために、ピヨピヨパンチでブーピッグを攻撃し、続いてフラフラダンスを使った。しかし、それは直撃したにもかかわらずブーピッグはこんらん状態に陥らなかった。

 ライジは舌打ちした。――とくせいはマイペースか。

 ブーピッグはフラフラダンスをしている間に立ち上がった。ブーピッグはふたたび尻尾を使って、上空にあがった。パッチールは上空を見、ピヨピヨパンチで迎え撃つ体制に入った。

 ブーピッグは降下してきた。パッチールはピヨピヨパンチで攻撃に入った。もちろん、とびはねるを前提としてだった。しかし、違った! ブーピッグが使ってきたのは、アイアンテールだった。パッチールのリーチより、ブーピッグの尻尾の長さのほうが長く、アイアンテールは直撃したが、パッチールはピヨピヨパンチを失敗してしまい、パッチールは地上にたたきつけられた。戦闘不能。

 ライジはパッチールを戻すと、次にライボルトを登場させた。ジャライはこのバトルで勝てば、ほぼ勝利したも同じだ、と思った。後は、最後のポケモンが何か、という問題だけ……。

「ライボルト、じゅうでんだ!」

 ライボルトは体内に電気を取り込んだ。その隙に、ブーピッグはサイコキネシスでライボルトの動きを封じ、宙に浮かせた。と、そのとき、ライボルトは突然十まんボルトを使ってきた。それはじゅうでんによってパワーアップしており、サイコキネシスを突き抜け、ブーピッグに直撃した。サイコキネシスの効果が途切れた。

 サイコキネシスから解放されると、ライボルトは走り出し、十まんボルトを受けたブーピッグにかみつくで攻撃をした。こうかはばつぐんだった。ブーピッグはアイアンテールでかみついているライボルトを攻撃した。かみつくをやめたライボルトだったが、倒れるようなことはなかった。

 ライボルトは、再びじゅうでんを使った。今度はシャドーボールをブーピッグは放った。ライボルトは、じゅうでんをしながら、それをかわし、じゅうでんを完了させると、十まんボルトを放った。ブーピッグは、それを尻尾を使って空中に回避した。そして、空中からのアイアンテールを再び使ってきた。

 ライボルトはそれを寸前で、でんこうせっかで回避し、十まんボルトでブーピッグを攻撃した。ブーピッグはシャドーボールを放ったものの、十まんボルトを受け、放たれたシャドーボールはライボルトに直撃した。

 ジャライは、ブーピッグにサイコキネシスの指示を出した。ライボルトはサイコキネシスにつかまったが、十まんボルトを使い、ブーピッグに攻撃を仕掛けた。しかし、ブーピッグはそれを予期していたかの如く回避した。そして、ライボルトは地面にたたきつけられた。

 ライボルトは立ち上がると、でんこうせっかでブーピッグに攻撃を仕掛けた。ブーピッグはアイアンテールで向かい打とうとするが、でんこうせっかを使っていたライボルトはそれをかわし、ブーピッグの背後につき、かみつくで攻撃した。こうかはばつぐんなだけあって、大きなダメージを受けたブーピッグは、戦闘不能になった。

 ジャライはブーピッグをボールに戻した後、次に出したのは、先ほどのシザリガーだった。

「悪いがこの勝負はすぐにもらった!」とライジはつぶやいた。「ライボルト、じゅうでんした後に地面に向かって十まんボルトだ!」

「シザリガー、バブルこうせんだ!」

 ライボルトはじゅうでんしている最中にバブルこうせんを受けた。しかし、ライボルトはひるむことなくじゅうでんを完了させると、ライジの指示通りに地面に向かって十まんボルトを放った。

 ここでトドゼルガを忘れてはならない。氷の橋が壊れたときの氷がいまどうなっているか? 暑いこの会場の中、氷の原型は水である。そう、地面には水が溜まっていた、

 その水に電気を流せば、どうなるか? みずタイプのシザリガーはみずたまりを好み、みずたまりの上にいた。そのシザリガーに、じゅうでんでパワーアップした十まんボルトを受けたとなれば、シザリガーはすぐさま戦闘不能になることになる。かわすこともできず、シザリガーは戦闘不能になった。

 ジャライはシザリガーをボールに戻した。そして、別のボールを取り出し、それを投げた。登場したのは、前回、ライジのバシャーモを倒した、ジャライのバシャーモだった。

 ジャライはバシャーモにすばやくかえんほうしゃの指示を出した。ライボルトは、それをでんこうせっかでかわし、十まんボルトで攻撃を仕掛けた。バシャーモは、それをオウムがえしで綺麗にかわし、ライボルトのひらいしんによってライボルトに戻っていった。

 十まんボルトはきかないか、とライジは思った。

 そう思っていた矢先、バシャーモが走り出していた。ライジはすぐさまでんこうせっかの指示を出し、それをかわさせたが、バシャーモはその方向に走りながら、かえんほうしゃを放った。かえんほうしゃはライボルトに当たり、かえんほうしゃの炎を受けているライボルトに、ブレイズキックで追撃した。それはきゅうしょに直撃し、ライボルトは戦闘不能になってしまった。

 ライジは、ライボルトをボールに戻した。

「頼んだぜ、バシャーモ」ライジは次のボールを取り出す。「去年のあの準決勝の戦いを忘れたわけじゃないだろう。ここで、ばっちりリベンジしようぜ」

 そう言って、ライジはバシャーモをフィールドに登場させた。それはほぼ完全に前回の準決勝の再来だった。

「お互い、最後の一匹はラストというわけですね」とジャライは言った。

「ふん、そんなつもりはねえよ」とライジ。「俺は、前回のリベンジをバシャーモにさせてやりたいだけだ。お前みたいなやつに倒されて、きっと腹の虫がおさまんねえだろうからな。いくぜ、バシャーモ!」

 バシャーモは走りだした。と共にジャライのバシャーモも走り出した。そして、両者ブレイズキックで打ち合い、相打ちに終わった。

 ライジのバシャーモは、再び走り出した。ジャライのバシャーモはそのバシャーモに対して、かえんほうしゃを放ち攻撃するが、バシャーモはその炎の中、走り続ける。ライジのバシャーモはそのままでんこうせっかで攻撃をし、続けてスカイアッパーで攻撃をした。

 ジャライのバシャーモは、すぐさま立ち直ると、かえんほうしゃを放った。しかし、ライジのバシャーモはその中で、ビルドアップを使い、パワーアップを試みた。ジャライのバシャーモは走り出すと、ライジのバシャーモは身構えた。そして、ぎりぎりまで引きつけ、スカイアッパーで攻撃を試みた。しかし、ジャライのバシャーモがオウムがえしを使ったことによって、その攻撃は相打ちに終わった。

 だが、それだけではなかった。相打ちに終わった途端、ジャライのバシャーモはブレイズキックでライジのバシャーモを攻撃したのだ。こうかはいまひとつだったが、きゅうしょに直撃したため、通常のダメージは受けてしまった。

「もう一度、ブレイズキックだ!」とジャライ。

「でんこうせっかでかわせ!」とライジ。

 ブレイズキックで攻撃を仕掛けてくるジャライのバシャーモに対して、ライジのバシャーモはでんこうせっかでそれをかわし、さらにでんこうせっかで攻撃することに成功した。しかし、所詮はでんこうせっか。大きなダメージを与えるにはいたらない。

 ライジのバシャーモは再びでんこうせっかを使った。ジャライのバシャーモは身構え、でんこうせっかを綺麗にかわしたかと思うと、ブレイズキックでバシャーモを蹴飛ばし、攻撃した。さらに、かえんほうしゃでバシャーモを攻撃した。

 ライジのバシャーモはその炎から脱出すると、ビルドアップを使った。どんどんとパワーアップさせていく。

 ジャライは思った。――ほう、パワーアップするということを覚えたのか。ならば、こちらは不利だな……。

 ジャライのバシャーモは身構えた。ライジは、再びでんこうせっかの指示を与え、ジャライのバシャーモに接近する。ジャライのバシャーモはそれをかわし、先ほどのようにブレイズキックをお見舞いしようとするが、ライジのバシャーモはすばやく方向を変えてそれをかわし、Uターンでんこうせっかをお見舞いした。ビルドアップの効果によって、その威力は増していた。さらに、スカイアッパーを追加して攻撃し、ジャライのバシャーモは上空にあげられてしまった。

 上空に飛ばされたジャライのバシャーモは、降下しながらかえんほうしゃを放ち、ライジのバシャーモを攻撃するが、ライジのバシャーモはまったくダメージを受けている様子を見せなかった。と、そう思っていたとき、突然、ジャライのバシャーモのかえんほうしゃがやんだ。そして、降下しながら、スカイアッパーで攻撃を仕掛けてきた。

 ライジのバシャーモはスカイアッパーで対抗した。二つのスカイアッパーはぶつかり合った。しかし、空へのアッパーよりも空からのアッパーのほうが威力が増しており、ビルドアップしたライジのバシャーモのスカイアッパーを打ち砕いた。

「バシャーモ!」とライジは叫んだ。

 と、そのときだった。突然、ライジの足に鋭い痛みが走ったのだ。ライジのフィールド上の集中力は一瞬にして途切れ、足の痛みのほうへ回ってしまった。

 ライジのバシャーモは、スカイアッパーに押されてしまい、フィールドにめり込むような形で倒れていた。しかし、戦闘不能というわけではなく、まだ立ち上がることは可能だった。

 ライジは足の痛みを歯を食いしばって耐え、フィールドのほうに集中力を戻した。しかし、先ほどまでの集中力と比べれは、比べ物にならないほど薄くなっていた。

「バシャーモ、でんこうせっか!」とライジはバシャーモに指示を出した。

 バシャーモは立ち上がると、でんこうせっかでジャライのバシャーモに攻撃を仕掛けた。ジャライのバシャーモは、今度はかわすことなく直接ブレイズキックで攻撃してきた。ライジのバシャーモはそれをでんこうせっかのスピードを生かして回避し、Uターンでんこうせっかで攻撃を仕掛けたが、それはかわされてしまい失敗に終わった。

「バシャーモ、ブレイズキックだ!」とジャライ。

「お前もだ、ブレイズキック!」とライジ。

 両者はブレイズキックで共に攻撃しあった。その両者のキックは、互いの腹を蹴りあい、互いのきゅうしょを捕らえていた。ブレイズキックを受けた両者は、その場に倒れてしまった。

「戦闘不能!」と審判の声が響くと共に、両手の旗があがる――両者、戦闘不能である。

 両者はそれぞれのバシャーモをボールに回収した。

「お疲れ様、バシャーモ」とライジはボールに回収したバシャーモに言った。「今回は引き分けだったが、なかなかよかったよ。また、リベンジの機会があればやろうじゃないか。後は応援をしてくれよ」

 ライジはバシャーモのボールを戻すと、次のボールを取り出した。そのとき、再びライジの足に鋭い痛みが走った。とともに、ライジは怪我をした足を崩し、その場にひざまずいてしまった。ライジの表情に一瞬にして苦痛がよぎる。

 会場内にざわめきが起こる。審判も心配そうにして、ライジに話しかけるが、ライジはその話しかけに答えない。ジャライはそのライジの姿をじっと見ているだけだった。

 これで最後なんだ、とライジは痛みを我慢しながらも考える。もう少しでやつを倒せるんだ。それにやつを倒せば……俺は優勝できるんだ。いや、優勝しなければいけないんだ、イイラのためにも。

 審判の心配そうな声は続く。ライジは相変わらずそれを無視していたが、ゆっくりと立ち上がった。足にはいまだに鋭い痛みが走り、彼はやっとの思いで立ったものの、立っているだけで、フィールドへの集中力がなくなっていた。

「大丈夫ですか?」と審判はライジに尋ねる。

「大丈夫です」そう言っただけでもライジの足には痛みが走る。「続行をお願いします」

 ライジは持っていたボールを見た。そして、そのボールに祈った。――これが最後のバトルだ。頼んだぜ……。

 ライジは、最後の戦いの場にそのモンスターボールを放った。まばゆい閃光の中から登場したポケモンは、フライゴンだった。

 観客席で見ているライラはいささかの驚きを見せた。フライゴン……あのポケモンは、ヘル・フォレストでライラと別れた際にいたあのナックラーなのだ。彼はそのときに、ナックラーで優勝をしてみせるといった。そのナックラーが進化した姿であるフライゴンが、いまこうして優勝をかけた舞台にいる。

 ジャライも最後のフィールドにボールを放った。そのボールから登場したのは、ホウエン地方ではめったに見ることのできないポケモン、ガルーラだった。

 ライジとイイラはそれを見てはっとした。ガルーラ! ライジが足を怪我してしまった理由のひとつ。そのガルーラが、彼らの前に現れたのだ。ライジの足はズキズキしてきた。あのときのことを思いだすだけで、足が痛む……。

「最後のバトル。全力でいかせてもらいます」とジャライは言った。

「望むところだ。いくぞ、フライゴン!」

 バトル開始の合図があった。

 ライジは、まずドラゴンクローの指示を出した。フライゴンは急速にガルーラに接近する。ガルーラはフライゴンをぎりぎりまでひきつけた後、大きな体を横に動かし、射程距離の短いドラゴンクローを一寸の差でかわすと、すぐさまピヨピヨパンチでフライゴンに反撃した。

 ライジは続いてだましうちの指示を出した。ガルーラはそれをこらえ、だましうちをしてきたフライゴンを再びピヨピヨパンチで攻撃した。

 ――接近戦だと、ピヨピヨパンチを使われるな。

 ライジはそう思い、いったん距離を取り、フライゴンにじしんの指示を出した。と、フライゴンがじしんを使おうとしたとき、ガルーラははかいこうせんを使い、フライゴンのじしんを阻止にかかった。フライゴンはじしんを使うことはなく、また、はかいこうせんをギリギリで回避した。

 ライジは完全に防がれた、という気持ちに襲われた。接近戦に持ち込めば、寸前のところで綺麗にかわされ、ピヨピヨパンチで攻撃され、また、遠距離戦となればはかいこうせんを受けなければいけない。はかいこうせんは強力なわざだ。だから、受けてしまえば大きなダメージになってしまう。

 ライジの足はさらなる痛みが走った。その間にも、ガルーラははかいこうせんを使って、フライゴンに狙いを定め、攻撃を仕掛けてきている。しかし、ライジはいったいどうしていいのかわからなかった。足の痛みが、大きな錘になっていて、集中できないのだ。

 そのとき、フライゴンは急激に上昇した。ライジはいったいどうしたのか、と焦りつつ、上昇していくフライゴンを見上げた。フライゴンは、急降下してくると、フライゴンの羽が光だした――はがねのつばさである。フライゴンは、そのままガルーラに接近していく。

 ジャライはガルーラに回避の指示を出した。しかし、この場合のフライゴンは急降下によるスピードアップによって、直前のところで回避するというわざは使うことができず、ガルーラははがねのつばさに直撃してしまった。

 ライジはいったいフライゴンはどうしたのだろう、といぶかしげた。当然のこと、フライゴンはライジの指示を受けずして、はがねのつばさを使いガルーラを攻撃した。いったいどうして? ライジはしっかりとフライゴンを教育している。勝手な行動は取らないはずなのに……。

 そのとき、ライジは、ヘル・フォレストでこのフライゴンがナックラーだったときのことを思いだした。ナックラーの親のフライゴンをライジが攻撃しようとしたとき、ナックラーはそれを止めたっけ。もちろん、それは親に対する愛情だったのかもしれないが、その後、ナックラーはライジになついたままだった。

 ナックラーは――フライゴンは、彼を助けようとしているのだ。集中力が途切れてしまい何もよい案を考えることができないライジにかわって、フライゴン自身が考えているのだ。このフライゴンは、あのフライゴンの子供だ。それだけの知能を持っていてもおかしくない。

「フライゴン!」とライジは叫んだ。「いくぞ!」

 フライゴンはそれに応えるように咆哮する。

 ライジは急上昇の指示を出した。そして、急降下して、フライゴンははがねのつばさで再びガルーラを攻撃した。ガルーラは、そのフライゴンに対してはかいこうせんを放った。フライゴンはそれを瞬時に見極め、すばやくかわす。

 ジャライはこらえるの指示をガルーラに出し、フライゴンははがねのつばさでガルーラを攻撃した。ガルーラはその攻撃によって倒れることはなかった。逆に、はがねのつばさで攻撃してきたフライゴンをきしかいせいで攻撃をしたのである。きしかいせい……体力が少ないほど、威力が上がるわざ。急降下によって強力な威力を持つはがねのつばさを受けたガルーラにとって、まさに起死回生のわざだった。

 しかし、これはライジにガルーラの体力が少なくなっていることを知らせることにもなった。彼はフライゴンをガルーラから遠ざけ、ガルーラの遠くでじしんの指示を出した。ガルーラは、阻止をするためにはかいこうせんを放ってきたが、ライジはそれを見極めており、フライゴンもそれをわかっていたため、回避することは容易だった。

 そして、フライゴンはじしんを使った。ジャライはすぐさまガルーラにこらえるの指示を出し、じしんから身を守った。

 そのときだった。フライゴンはこらえるでじしんをこらえている間に、動き出していたのだ。それも直線上に。じしんをこらえたそのとき、ジャライはすぐさまきしかいせいをガルーラに指示した。しかし、きしかいせいが出るその一瞬前、フライゴンはガルーラの懐にだましうちをお見舞いしていた。

 ガルーラは倒れた。

 何百人といる会場が静寂に包まれた。フィールドに立つトレーナーたちの息遣いが聞こえるぐらいに。

 その何分もあったかのような沈黙を破ったのは審判の「戦闘不能!」という言葉だった。

 会場が一気に沸き立った。称賛の声、言葉になっていない叫びの声、そのような言葉や叫びが会場を包み込んだ。

 その沸き立つフィールドの中心に立つライジは、まだ状況を理解していなかった。戦闘不能……? その言葉を聞いてずっと言葉を反芻していた。つまり、勝利したのだ。そう、勝利を……優勝したんだ!

 それを理解した途端、ホウエンリーグ優勝者は意識を失い、その場に倒れた。


 意識を失っていた時間は、そう長くはなかった。彼はただその足の鋭い痛みに気絶しただけだったのだ。今では医師の処置を受け、痛みはひいていた。だが、まだ応急処置の段階であったから、病院で正式な治療を受ける必要があった。だが、医師の許可によって、ライジはホウエンリーグ優勝という栄冠に浸り、閉会式で受賞した。

 授賞式が終わるとライジはすぐに病院に搬送され、診察を受けることになった。診断結果は、悪いものではなく、切断という最悪の事態は免れたが、リハビリが必要であると診断された。

 そのことを聞いて、イイラはほっとした。リハビリはつらいものであるかもしれない。だが、足の切断という最悪の事態は免れたのだから、それと比べればたわいもないものである。

「よかった。ライちゃんがそのままでいてくれて」とイイラは言った。

「そうだな。まあ、リハビリなんてたいしたことはないだろうよ。たった三ヶ月だぜ! 俺の一年間の修行と比べたら、たわいもないことだろうよ」

 そのとき、病室のドアをノックするものがあった。入ってきたのは、ジャライだった。

「おめでとうございます、ライジさん」とジャライはライジの側に寄ると言った。「お体のほうはおめでとうではないようですが……」

「おめでとうだ」とライジは言った。「切断しなくて済んだんだからな!」

「それでは、おめでとうございます。そして、優勝も」

「これで、俺はお前より強いってことが証明されたわけだ」とライジは自慢するように言った。「後はバシャーモのリベンジをさせてもらうぜ」

「お好きなように。それと共に、わたしのリベンジもさせてもらいましょうか。あたなには心理的なものはまったく関係していないようだから、今度は積極的にいかせてもらいますよ」

「どういうことだ?」

「ガルーラですよ。わたしはあなたがガルーラで怪我をしたことを知っていたんですよ」

「じゃあ、あのガルーラは、あの洞窟のガルーラか?」

「いかにも」

「じゃあ、つまり俺が怪我をしたのはお前のせいってことになるな、ジャライ」

「どういうことです?」とジャライは驚いたようだった。「わたしがなぜ、ライジさんの怪我に関与しなければいけないのです?」

「お前がガルーラを出したとき、わかったんだよ。お前、ガルーラを一回攻撃して捕獲に失敗した後にまた捕獲しにいっただろ?」

「なぜ、それを……」

「そのせいなんだよ、ジャライ、俺が怪我をしたのはな。お前が捕獲し損ねたことで、ガルーラは人間不信になったんだろうと思う。その状態のガルーラのところに俺は行った。そこで、ガルーラは俺を――人間を発見し、自衛のために攻撃してきたんだ。その攻撃で俺は怪我をしてしまった。ことの顛末はこういうことだろうと思う」

「なるほど。つまり、わたしを非難なさるというのですね?」

「そんなつもりはない。お前だって、あのガルーラの強さを知っていたから捕まえて、リーグで使ったんだろう? 扱いにくい新しいポケモンなのにな。そのおかげで――それに、フライゴンやイイラのおかげで、俺は優勝することができたんだ。つらかったといえど、感謝してるよ」

「そんな、感謝される覚えはありません。申し訳ないことをしました」

「お前もそういうタイプか」とライジはため息をついた。「感謝してるっていってるのに、なぜ謝る?」

「あなたを怪我をさせたのは、間接的にせよ、わたしなのですから、謝るのは当然です」

「そんなこと気にしちゃいねえよ。お前を倒せたこともあるしな!」

「しかし、私はあなたに倒されたままになるつもりはありませんよ」

「望むところだ! お前をもう一度ぶったおしてやるよ。それまで覚悟しておきな」

「ところで、ライジさん。あなたこの次、どの地方に行くおつもりですか?」

「カントー地方だ。お前のせいでいくのが一年も遅れちまったがな」

「なるほど。では、今度はカントーの地でお会いしましょう。そのときには、わたしはさらなるパワーアップをし、あなたを倒しますよ」

「上等だぜ。やれるものならやってみろってんだ!」

 そのライジの言葉を背中で受けながら、ジャライは病室を出て行った。

 ドアが完全に閉まると、イイラが言った。

「そういえば、まだ私はライちゃんに言ってなかったね。優勝おめでとう、ライちゃん!」

「ありがとう、イイラ」とライジは言った。「俺も感謝してるよ。俺はこの怪我をした中で優勝することができたっていうのは、名誉なことなんだぜ? 怪我人が優勝するなんて、今までになかっただろうからな。……それに、イイラが応援をしてくれたから――」ライジは言葉を濁した。

「そ、そんなことないよ。ライちゃんの実力だよ」イイラは顔を少し赤らめた。「ところで、ライちゃんは、どうするの? カントー地方に行くの?」

「そのつもりだよ。あそこには強いトレーナーがたくさんいるんだ。俺は、もっと強くなる」

「そ、そのさ、ライちゃん」とイイラは戸惑っているように言った。「私も……ライちゃんと一緒にカントー地方に行っちゃだめかな?」

 その言葉に、今度はライジが少し戸惑ってしまった。ライジはその回答を少しためらっていると、イイラが言った。

「やっぱり、ダメだよね……」

「そんなことはない」とライジはすぐに否定した。「イイラ、一緒に行こう」

「本当に……いいの?」

「いいとも。行こうよ、一緒にカントー地方に。お前がいれば……俺はもっと強くなれると思う」

「ライちゃん…………ありがとう」

 そう言って、イイラはライジの体に寄りすがった。ライジはその彼女をしっかりと抱きしめた。

あとがき

 ポケスクの先代であるポケモン情報エリアが開設されてから三周年となるので、その記念として書きました。

 なんで、ポケスクではなくポケ情(ポケモン情報エリアの略称)で記念作を毎年公開しているのかというと、私の中ではあくまでポケスクはポケ情であり、私はポケ情を今でも好きだからです。本来ならサイト名を変更したくなかったのですが、ポケモン情報エリアでは、小説サイトと思われないことが問題となって、今のタイトルに変えたという仕方なしという経緯もあったのです。だから、まだポケ情は私の心の中にあるので、このように9月24日を記念日にしています。

 さて、この作品は、ポケモン情報エリア二周年記念として公開した「沼と砂」に登場したライジを再び登場させました。もともと、ライジを再起用するつもりはなかったのですが、沼と砂には矛盾やら解決していない謎やらが含まれていたので、この作品で解決させよう、ということで書きました。それに、二周年記念の次に、三周年記念が、同じ主人公というのも素敵だと思いませんか?

 解決していない謎は前半で修正したのですが、後半のジャライとのバトルシーンがやたらと長くなってしまって、正直申し訳ないです。短編といえる長さでもなく、正直、自分でもこんなに長くなるとは思いもしませんでした。まあ、その分、好きなように書くことができて、しっかりとした作品になったように思います。

もくじ