違う隠

 コウサイがいる秘密基地の出入り口に、入ったときはなかった、ノワキのみのようなジグザグした赤い模様をしたものがある。最初は目の錯覚だと思い、目をこするがそれは消えない。おそるおそるコウサイはそれに触れた。

 それが幻でないことだけは確かだった。不思議に思った彼女は、それをしきりに触っていると、声のようなものが漏れると赤い模様が動き出し、黄緑に近い色の姿をし、頭にとさかのようなものがついているものが、暴れながら突然姿を現した。

 コウサイは、あまりの出来事に驚き、しりもちをついてしまった。変な模様が、今度は姿かたちを突然とあらわした。周りには何もいなかったはずなのに、そこに突然現れれば、何も知らない彼女にとっては驚くべきことであろう。

「あなた…………だれ……?」やっとのことで彼女は言葉を発した。

 その声をきいて、その生き物は突如動きを止めた。そして、彼女と目が合った。

 しばしの沈黙。その沈黙の間に、互いのことを無言で会話をしていた。

「わたしは」コウサイは沈黙を破った。「コウサイっていうの」

 コウサイは立ち上がった。相手は返事をしなかったものの、体をコウサイのほうへ向けて、コウサイを上から下まで観察している。その目は、まるで味方と敵を見比べているといったようだった。そして、それは一声うれしそうに鳴いた。

 それから日が暮れるまで、二人は川の近くで遊んだ。コウサイは、それがポケモンだということを認識はしていたが、名前は知らなかった。それだと呼ぶときに困るので、彼女は、そのポケモンに、“ギリー”と名づけた。

「ギザギザの模様と、あなたの色からなのよ」彼女はギリーと名づけたときに、ギリーにそう説明した。

 その話をかいつまんで、コウサイは父に話した。

「そりゃあ、カクレオンってポケモンだな」とコウサイの父。

「かくれおん?」

「そうだよ。体の色を変えて、あたりと同一化してしまうことができるポケモンなんだ。コウサイもカクレオンぐらいはそろそろ知っておかないとな。そろそろ旅に出るんだしね」

 だから、あの時突然姿をあらわしたんだ、とコウサイは思った。

「それにしても遊ぶときは気をつけるんだよ」と父。「最近、ヒワマキの周りに変なやつらがいるという話だからね。あんまり上流のほうにいったり、森の奥にはいかないこと。変な人をみたら、何もせずに戻って来るんだよ」

「うん!」


 それからコウサイとギリーの日々は続くことになった。学校が終わると、ギリーとあった秘密基地へ行き、しばらくするとギリーがやってくるのだ。日がたつうちに、ギリーが現れる方法は、遊び心があるものになり、コウサイの目にギザギザ模様に映ったと思うと、ギリーが姿を現すのだ。それには、コウサイはとても驚いていた。

 ギリーは、比較的に森側のほうを好んでいたので、遊ぶ場所は、森の中が多かった。なぜ、川沿いを嫌っていたか、コウサイには理解しがたかったものの、森のほうが遊ぶことは多かった。もしかしたら、遊ぶ場所が多い森を選んでるのかも、と彼女は言い聞かせ納得していた。

 彼女の持っている秘密基地は、どちらかというと川沿いにあった。森で遊ぶ機会が多くなったので、彼女は思い切って森に近いところへと、秘密基地を引越しした。

「こっちのほうが早く遊べるでしょ?」

 そんな引越しから、一ヶ月たったころだった。

 コウサイがいつもどおり、新しい秘密基地にやってくると、そこは彼女が知っている秘密基地ではなくなっていた。壁に貼ったポスターは破れ、人形もボロボロになっている。置物は、すべて倒れ、荒っぽい強盗が入ったような状況となっていた。

 コウサイは唖然とした。この秘密基地でいったい何が行われたのだろう? 泥棒が入ったにしたって、アイテムが盗まれていないのだから泥棒ではない。コウサイを嫌っている誰かが、秘密基地を荒らすにしたって、彼女が知っている限りで、うらまれることはしていないし、そもそも学校を休んだ人がいなかったから、ここにこれるはずはなかった。

 そのとき、コウサイは床に、黄緑系の色をした薄っぺらく小さいものが落ちているのに気がついた。それを拾い上げると、それが、カクレオンの皮膚だということに気がついた。

「ギリーのだ」とっさにコウサイは思った。「ギリーが何か危ない目にあったのかも」

 そのとき、一ヶ月前に父が言っていた言葉を思いだした。ヒワマキの周りに変なやつらがいる。

 とっさにコウサイは、秘密基地を飛び出した。ギリーを探さなきゃ、という感情が彼女の心を占めていた。彼女は、父が別に言っていた言葉を思いだすことはなかった。

 秘密基地の周りにギリーはいなかった。その周りの木には、最近できたばかりの新しい傷跡が多数できていることに、コウサイは気づき、これはただことではないことを、本格的に認識した。それでも、彼女は退くつもりはなかった。ギリーが危険とわかっていて、見捨てるわけにはいかなかったのだ。

 知らぬうちにコウサイは、森の奥へと入っていた。あたりは、そろそろ夕暮れ時になり、木々が生い茂る森の中は、すぐにでも真っ暗になるだろう。

 不意にコウサイは、森の中かから出た。もう三十分もすれば日が暮れるほど太陽は傾いている。だが、コウサイはそれには気づかなかった。

 ギリーがいたのだ。別のポケモンと一人の男と向き合うようにして。

「ギリー!」コウサイは思わず叫んだ。

 それに反応したのは、ギリーではなく、男のほうだった。

「ガキか」男は舌打ちした。「悪いことはいわねえから、どっかにいきな」

 その忠告にコウサイは耳を傾けず、ギリーに近寄った。ギリーの息はあがっていた。どうやら、長い間、走ったりなんだりして体力を消耗していたのだろう。

「大丈夫、ギリー?」

 ギリーは、いつもの元気こそないものの、大丈夫だというように鳴いた。その様子を感じ取ったコウサイは、ギリーの体に傷があるのを発見した。それをみて、完全に状況を理解した。

「おい、そこをどけよ!」

 男の声が響く。その声は前に言った言葉より力強くなっており、脅迫でもするような勢いだ。

 この男がギリーを傷つけたんだ、とコウサイは心の中で思った。それも私たちの秘密基地から、この場所まで。

 そう思うと、コウサイの感情がみるみると変化していった。そう、怒りの感情に。ギリーを傷つけて、それでもまだなお、傷つけようとしているあの男に。

「チッ、邪魔なガキが。サイホーン、ロックブラストだ」

 男のサイホーンは、コウサイたちの周りにロックブラストを放った。

「早くそこをどかないと、ロックブラストがお前にも当たるぜ」

「ふざけないでよ!」

 男の言葉を聞いたコウサイはついに堪忍袋の緒が切れた。その口調は、彼女の九年間の人生で初めて出たものであると思われるほど激しいものだった。

「おかしいじゃない。ギリーがあなたに何をしたというの? いいえ、するわけないがないわ! ギリーは絶対に危害を与えることなんてしない。それにしたとしても、あなたにそれをやるしかくはないわ!」

 相手が子供といえど、その気迫に男は少したじろいだが、開き直ったように言い返した。

「何をしようと俺の勝手だ。お前に言われる筋合いはないぜ。それ以上何かを言うというなら、このままサイホーンのロックブラストを直撃させてもいいんだ。そうなりたくなかったら、さっさとそのカクレオンからどきな!」

「いやよ! 私はギリーから一時も離れないわ」

 男は、サイホーンに目配せをすると、サイホーンはロックブラストを放つ体制に入ったのが、コウサイにはわかった。

「ギリー、逃げよう!」

 幸いギリーは歩けない状態ではなかったので、すぐにその場から彼女たちは退き、森の中へと逃げ込んだ。後ろを振り向く暇こそなかったが、男たちが追いかけてきているのは、茂みの音でわかった。

 とにかくコウサイとギリーはひたすら走り続けた。いつ追いつかれて、ロックブラストで攻撃されるかわからない恐怖。旅もしたことなく、平和に過ごしていた九歳の少女のその心理は、押しつぶされそうだった。

 ギリーが、進路変更をしようと手で合図をしていたので、彼女はそれに従い進路を変更して、茂みの中に隠れこんだ。その茂みは決して大きいとはいえず、コウサイ一人が隠れられるので精一杯だった。

「ここじゃダメ。ギリー、場所を変えないと」

 彼女の前から突如として、ギリーの姿全体が消えた。姿が消えたことで、彼女は不安に陥ったが、ギリーが何を意図していたかを、おなかのギザギザ模様をみて理解し、一人茂みに身を隠した。

 遠くからガサ、ガサと葉がなっている音がする。音がなる間隔は広いが、音の大きさはだんだんと大きくなってきている。ガサ……ガサ……。その音を聞くたび、コウサイの体は震え上がる。

 音がやんだ。コウサイの体は震えがとまるどころか、さらに震え上がった。

 と、突如、コウサイがいる茂みが明るくなった。そして、サイホーンのロックブラストが飛んできた。

 コウサイの体が光に照らされた。何が起こったか理解できていないコウサイは、ただその光に照らされるばかりだった。

「こんなところに隠れてたのか。ずいぶん探したぜ」男はいった。「カクレオンはどこだ?」

 コウサイはまだ現状理解ができておらず、その問いに答えることはできなかった。

 返答がないことにイラついた男は、荒っぽい口調で再度きいた。「カクレオンはどこだ?」

 やはり、コウサイは返答をしなかった。さすがに、それに男はイラつきを抑えられなくなったのか、鋭い剣幕でいった。「カクレオンはどこだ!」

 その鋭い声に反応して、コウサイは現状理解を一瞬のうちにして果たした。視野が復活した彼女の前には、男とギリーが立っていた。

「やっと、お出ましか」男は不敵な笑みを浮かべながら言った。「サイホーン、ロックブラストだ!」

 ギリーは、それをぎりぎりながらも横にかわし、再度姿を消した。男は、それに対して手にしている懐中電灯であたりを照らし出し、カクレオンの姿を消す能力の盲点である、おなかのギザギザ模様を探した。だが、それが見つからないにもかかわらず、男の表情は変わっていなかった。

 男は、懐中電灯をおろし、ギリーを探すのをやめた??と同時にサイホーンに恐ろしい指示を出した。

「サイホーン、ロックブラストを放ちまくれ!」

 ロックブラストが、四方八方に放たれる。コウサイは身の危険を感じ、その場から移動しようとした。だが、体は動かなかった。体は震え上がっていたのだ。

 そのとき、ロックブラストがコウサイめがけて飛んできた。コウサイはそれが意味する恐怖をかけられ、すべての恐怖を吐き出すかのように、鋭い悲鳴ともとれる叫び声をあげた……。

 コウサイへ向かって飛んでいった岩は、彼女の前に現れた舌によってはらいのけられた。だが、彼女の前には何もないし、その舌はすぐさま消えてしまった。

「やっぱり、お前にはその能力があるんだな」男はうれしそうにいった。

 コウサイの前にギリーが現れた。ギリーは、コウサイが無事かどうかを確認していたが、呼吸こそしているものの意識はなかった。ただ、安定した呼吸ではあった。

 ギリーは、男のほうへ向き直った。ギリーの目は、今までにない嫌悪に満ちた鋭い目だった。

「そんな目をするんじゃねえよ」男は、威圧され少々腰が引けていた。「カクレオンの盲点である、隠せないギザギザ模様すら消せるお前のsの能力があれば、お前は栄光を手にすることができる。その栄光を手に入れるために、俺らと一緒に来ないか?」

 ギリーはその言葉に何の反応も示さない。男はさらに説得を続けたが、ギリーの態度は変わらなかった。さすがにそうなると、短気なこの男は、イラつきを見せてきた。後のほうの説得は脅迫じみていて、とてもついていこうという気が起きないものだった。

 男は舌打ちをするといった。

「こうなりゃ、強制的にきてもらうぜ。サイホーン、とっしんだ!」

 サイホーンのとっしんをギリーはかわさなかった。いや、かわせなかった。なぜなら、サイホーンのとっしんがあたったギリーは、ギリーの「みがわり」によってできたものなのだから。

 とっしんを失敗したサイホーンの後ろに、ギリーは回りこみサイケこうせんでサイホーンを攻撃した。

「サイホーン、ロックブラスト!」

 乱れうちのようなロックブラストをかわすことはできなかったが、最初のロックブラスト以外はほとんどダメージを受けることはなかった。

「特性の『へんしょく』なんて気にせずに打ちまくれ、サイホーン!」

 へんしょくによって、いわタイプになったギリーは、乱れ放たれるロックブラストの中から、ギリーも岩を使った攻撃を使い、サイホーンにヒットさせた。同じいわタイプのわざにもかかわらず、サイホーンは、それを受け戦闘不能となり、その場に倒れこんだ。

 男は唖然として、倒れたサイホーンと立っているギリーをみている。この光景がありえないとでもいう表情だった。

 ギリーは先ほどの鋭い目で男に視線を送っていた。それに気づき、この光景を見ている男は、サイホーンをボールに回収して、その場を去っていった。

 それを見届けると、コウサイのそばへと歩み寄っていった。コウサイはまだ、意識を取り戻していなかった。



 コウサイが目を覚ましたとき、ここはどこだろうと目を疑ったが、木々で作られたその四角い場所が、自分の部屋であるということを認識するまでにはあまり時間もかからなかった。だが、どうしてここにいるのだろういう疑問だけが残った。

 部屋の扉が開いた。視線を扉に移すと、コウサイの母と一匹のカクレオンが、コウサイの部屋へと入ってきた。

「目が覚めたのね」と母親はいった。

「ねえ、どうして私はここにいるの?」コウサイは真っ先に疑問について質問した。

「町の近くに、このカクレオンと意識を失ったあなたが倒れていたから、家まで連れてきたのよ」

「ギリー……?」

 コウサイは、自信なさげにその名前を呼んでみた。カクレオンは、一声鳴いた。

「この子、ギリーっていうの」と母。「ずっと、あなたについてきたのよ。あなたのことがそれだけ心配だったんでしょうね」

「おいで、ギリー」

 コウサイはギリーを呼び寄せ、抱きしめた。それはもう力強く。

「ギリーが私を助けてくれたんだね。ありがとう」

「ねえお母さん」しばらくすると、コウサイはいった。

「なに?」

「私ね、旅に出るときにもらう最初のポケモンはいらないよ」

「どうして?」

「だって、ギリーをつれてくんだもん!」

あとがき

 普段お世話になってる某サイトの某氏への捧げものです。サイトが一周年ということでプレゼントしました。

 それでもって、私が書いたポケモン小説第二十作目でもあります。

もくじ