花の都

 都会で生まれ育った私は運が悪かった。花が好きな私だけれど、都会ではそんなにたくさんの花は見れない。唯一の楽しみは町にある花屋さんに毎日通うことだった。

 大人になった私はその花屋さんで働くこととなったのだが、店長は私にある町を教えてくれた。

「シンオウ地方にある『ソノオタウン』というところに行くといいよ。そこで花を見ないことは奇跡に近いというほどの町だよ」



 空気がおいしい??それがシンオウ地方に来たときの最初の私の感想だった。ジョウト地方のコガネシティと比べたらそれは何倍も。ジョウトの空気はコガネが一番悪いが、ジョウトで一番空気がいいところといえば、そのコガネの北にあるエンジュシティだ。しかし、そのエンジュシティと比べてもシンオウの空気はよかった。

 さらに、ジョウトでは見たこともない綺麗な花々がソノオタウンにたくさんあり、私の心を知っているかのように癒してくれた。

 ソノオタウンにつくと私はすぐに町にある花屋さん『フラワーショップいろとりどり』へと向かった。そこで、私は働くことになっており紹介状もちゃんと書いてもらっていた。

 花屋さんでは、今のところ三人が働いており、私が紹介状を店長の女性に渡すと、彼女をそれをすらすらと読み私を快く歓迎してくれた。

 それからの私の生活はばら色だった。ジョウトでは見たことのない美しい花に囲まれ、新しい花の知識を増やす。大好きな花の知識を得ることは苦にならず、どんどんと知識を増し、お店にやってくるお客さんに質問をされると、私自身だけで答えることができるようになった。もう感無量で、どんなことを話せばいいかわからないほどだった。

 そんな生活はコガネでは考えられなかった。こんな美しい花々があまりなかったし、なにせ花屋さんがほとんどないのだ。それに私はマンション暮らしだったので庭がなかったから、自分のところでたくさんの花を育てることなどできるはずがなかったのだ。

 そんなばら色の日々を送っていたある日のこと。私はソノオタウンのはずれにある家に花を届けることになったので、私はその家へと向かった。なんでも、その家の子供が誕生日なんだとか。

 その帰り道、私はソノオタウンはずれの花畑??通称“ソノオのはなばたけ”を見て店にかえることにした。まだ一ヶ月とたっていないが、この花畑にはもうこれで四度目で、それだけ美しい花々が咲いていて、私たちを魅了するのだ。

 ??魅了されながら帰るのも悪くない。

 すると、近くで何かが倒れる音がした。花の上に倒れたようなやさしい音だったので、私は立ち上がりあたりを見回した。最初は少しばかり気づかなかったが、私の後方五メートルぐらいのところに、オレンジに近い色をした体をしており首の辺りには黄色い浮き輪のようなものをしているポケモンが倒れていた。

 そのとき私はそのポケモンがなんという名前かは知らなかったので、なんと呼びかければいいかわからなかった。だが、怪我をしていたので私はジョウトからつれてきたポポッコのポワに協力してもらい、店にそのポケモンをつれて帰った。

 たいした怪我ではなかったので、ポケモンセンターにつれて行く必要もなかった。なぜかわからないが、店には応急処置用の薬類があったのですぐに対処することができた。

「フナミちゃんが今日したことが必ず一年に一度必ずといっていいほど起こるから用意してあるの」

 不思議な話しだなぁと私は思いつつ、悲しい気持ちになった。年に一度ポケモンが怪我をして倒れているんじゃ一匹ぐらい最悪の結末が待っていそうなものなのだから……。

「そして決まって??」店長はそこで口をつぐんだ。「いや、これはいわないほうがいいわね。いずれにしろすぐにわかることよ」

 私は気になって問いただしてみたが、店長は口を割らなかった。もっと私は問いただしたかったのだが、ちょうどそのときつれてきたポケモンが意識を取り戻したので、私は様子を見るため問いただすのをやめた。

「この子の名前はなんていうんですか?」私はまだ名前を知らなかったので、このポケモンの処置をしてくれた一番背の低い人に聞いた。

「ブイゼルというわ」

 私は「ブイゼル大丈夫?」と心配そうにたずねてみた。

 すると、ブイゼルは元気よく鳴き、大丈夫であることをアピールした。

 私はその声を聞いてほっとした。今まで道端でポケモンが倒れているのはみたことがなかったから、とても心配してたのだ。だけど、その心配も一鳴きされただけでどこかに吹き飛んでしまった。

 その後、私とブイゼルは二〇五ばんどうろへと向かった。このブイゼルは野生のポケモンなのだし元の住処に戻してやらなければならない。なんでも、私がブイゼルをみつけたソノオのはなばたけではなく、二〇五ばんどうろにすんでいるということなので、こっちに来たのだ。

 私はブイゼルがそこに来たら勝手に帰るものだとばかり持っていたのだが、ブイゼルはどういうわけか戻らない。そして、私を見つめていた。

「どうしたの、ブイゼル? 帰らないの?」

 ブイゼルな何かを訴えるかのように鳴き声をあげた。ブイゼルが何を言ってるかわからなかったものの、そのブイゼルの目から私と今後も会えるかどうかを気にしているように思えた。つまり、私のところに行ってもいいか、ということを訴えるように言ってるのだ。

 私は喜びがこみ上げてきた。前にそんなことがなかったわけではないが、真剣に訴えられたようなのはこれが初めてだった。私は「いいよ」といってあげると、ブイゼルはうれしそうな表情をして、二〇五ばんどうろを流れる川の中へと飛び込んで行った。

 その日の翌日からブイゼルは決まって昼を過ぎたところに店にやってくるようになった。私が店から出ることは容易だったが、やはりこういうことはけじめをつかなければならないから、遊んであげることはできないと言った。

 すると、ブイゼルは店長が花に水をあげているのをみて、それをまねて水あげを始めた。ブイゼルは花へあげる水の加減をどこで知ったのかわからないほど上手で、次々と花に水をあげて行った。

 それをみた店長は言った。

「このブイゼル、あなたと一緒にいたいみたいね」

 それから、店には新しい仲間が加わった。名前をイロルとつけられたそのブイゼルは、昼ごろやってきて店が終わると二〇五ばんどうろへと帰って行く……。暇ができたときはブイゼルと少し遊んだりもした。彼との絆は深まって行った。

 遊んでいる様子を店長がみたとき、店長はこうつぶやいていた。

「やっぱり、仲良くなるのね」

 その言葉は私の気になっていたことをひとつ取り除いた。


 その日は曇りで朝から何か嫌なムードが漂っていた。天気予報では夕方から雨が降るということだった。

 気分は少し落ち込んでいたが、店に入ったときに香る花のにおいやその美しい花々に元気をつけられ、また、昼過ぎにいつもどおりイロルが来て、私の心を晴らしてくれた。

 時計が四時を告げた。もう後少しで店は終わり、イロルも二〇五ばんどうろへと戻って行く。今日はこの天気のせいかもしれないが、店から出るのもイロルと離れるのも嫌だった。これは今日に限ったことで普段はこんなんじゃないのに……。

 そんな鬱になりそうな気持ちのとき、突然、イロルが店の外へと出て鳴き声をあげた。私が外へ出るとイロルは店の入り口側の空を指した。振り向くと、少し近い場所からなにやら大きな煙が上がっていた。この近くに工場でもあるのだろうかと思ったとき、町のアナウンスが流れ始めた。

「郊外にあるタタラせいてつじょより火の気が上がり、現在、消火活動を行っていますが火が強く、ソノオのはなばたけに火の気が燃え移り、ソノオタウンの花々を燃やす可能性があります。そのため、避難の準備を行い消火活動を行える方は至急、タタラせいてつじょへ向かってください」

 私とイロルは目を合わせた。その目から私とイロルが考えていたことは同じだった。

 タタラせいてつじょに到着したときに消火活動を行っていたのは五人だけだった。それぞれが一体ずつしか持っていないのか、結果、五匹で消火活動をしていた。それらの人はみな服装はばらばらであるからこのせいてつじょの従業員でないことはすぐわかった。

 火の気を見たイロルは自分でみずでっぽうを放ち消火活動を始めた。それをみて私はイロルに指示を出す立場でないことを思いだし、何をやればいいのか悩んでしまった。私の手持ちはポワ以外にいないのだ。

「ええい、消防隊はまだこないのか!」近くの男性は叫ぶような大きな声で言った。

 それを聞いて私は消防隊が来るのに時間がかかっていることを知った。あとどれくらいの時間できて、この火の気がソノオのはなばたけにいつ引火してしまうのかがわからない。私は気が気でなかった。

 そのときだ。まるで火山が噴火したように、爆音を上げ火が宙へと待った。私たちは爆風に吹き飛ばされ近くにある川へ落とされてしまった。急いで岸に戻り消火活動を再開しなければと思ったとき、イロルはタタラせいてつじょがあるほうではなくソノオのはなばたけの方面の岸にいた。

「イロル、早くしなきゃ! 花畑が燃え??」

 私ははっと息を呑んだ。イロルの後ろの花畑で火があがっているのが見えたのだ。さっきの爆発で、火の粉が花畑へと移ってしまったのだ。このままでは花畑が燃えてしまう!

 私は急いで花畑へと入り、イロルと共に火をどんどんと消して行った。だが、火の粉の数は多かったらしくそこらじゅうで燃えてしまっていた。中には別の火を消しているうちに、勢力を増してしまった火もあり、私たちは急ぎつ消し忘れのない消火活動を余儀なくされた。

 しかし、その丁寧な消火活動を一匹のポケモンでやるのには無理があった。多くの火に対して一発ですべて消せるならいいものの、イロルはみずでっぽうとアクアジェットというでんこうせっかのみずタイプ版のようなわざでしか火を消せないのだ。アクアジェットで一気に消すにも、わざ的には体力を相当消耗してしまうし、この多くの火を全部消すには体力がなさすぎる。

 火はどんどんと燃え移って行く。さすがにせいてつじょが爆発することはもうないが、あの爆発は致命傷のようなものだった。火は木にも引火しどんどんと勢力を増して行く。このときやっと消防隊が到着し、一般市民による消火活動は終わったように見えたが終わらず、花畑の消火活動を手伝ってくれた。

 だが、花畑を移って行く火は早く引火して行く。六人の一般に市民のポケモンによる消火活動でも花畑の消化は時間がかかり、その範囲を広めて行った。

 そして、ポケモンたちの体力もほとんどなくなり、消火活動を続けることすらままならない状態でイロルはがんばっていた。顔には苦しそうな表情を見せているが懸命にみずでっぽうを放っている。消火活動ができるポケモンはイロルだけ。消防隊からの応援もほとんどおらず??出火原因元の消化がさきなのだ??花畑はどんどん燃え広がって行った。

 私はその光景が地獄絵図に思えた。さらには私は地獄に来たのかと思った。美しい花々がどんどん消え去って行く……。人の心は恐怖に覆いつくされ、安らぎとなるものは皆なくなる。そして、心は破滅へと向かう……。

 そんな時、私の鼻に何かが落ちてきた。鼻の上を指でこすってみると、指がぬれただけだった。私はイロルをとっさに見たが水しぶきがこっちに来ることはない。ということは????。

 そういえば忘れていた。今日の夕方から雨が降るという予報だったのだ。その天気予報どおりのことが今起ころうとしている。

 私の心に一筋の光明がわいた。早く降れ早く降れ……そう願った。イロルの体力も限界だ。このままではソノオのはなばたけの花だけでなく、ソノオタウンにある花までもが燃えてしまう。

 突如、雷が鳴った。それを合図に大降りの雨がソノオのはなばたけに降り注がれた。ああ、雨が降ってきたのだ! そして、火をどんどんと消して行く。その雨はまるで台風並みの大雨で、火もすぐに消えて行った。

 それをイロルは認識すると、その場にふらっと倒れてしまった。私はそれに驚き、イロルの状態を確認したがどうやら疲れがたまったのか寝てしまっていた。私はてっきり倒れてしまい、ポケモンセンターに行かねばならないと一瞬焦ったがその心配はいらなかったらしい。


 翌日の晴れたその日の店を開ける前にソノオのはなばたけへと私は向かった。あの時は暗くなっていたし、花畑をじっくりみる暇がなかったので、どれくらい燃えてしまったのだろうか見るためだった。

 花畑は相当燃えてしまっていた。推定で、花畑半分は燃えてしまっているだろう。私は悲しくなった。人を癒す存在である花。それはもろく壊れやすいものなのだ。

 そのとき、私はある存在に気がついた。今まで気づかなかったのだが、遠く離れた川よりの場所にオレンジに近い色をした体をしており首の辺りには黄色い浮き輪のようなものをしているポケモンがいた。すぐに私はそのポケモンのところによった。

 足音で気づいたのかそのポケモンは振り返った。振り返ったときのその目で、私はそのブイゼルがイロルであることがわかった。イロルも一緒に店で働いていたから、この状況をみて悲しく思っていたのだろう。

「ねえ、イロル。私考えたことがあるんだけど」イロルをみると私は言った。「このお花畑をもう一度、花でいっぱいにしようと思うんだ。もちろん、それを考えてるのは私だけじゃないだろうから、町の人たちと一緒にね。あなたも手伝ってくれる?」

 イロルはうなずき、私たちは新たな決意と共にソノオのはなばたけを見渡した。

あとがき

 WEB拍手のお礼第一弾であり、ポケモン小説版花鳥風月シリーズ第一作です。

 いくらかWEB拍手のお礼を考えていて、結局できることといえば小説だけという現実を知り、小説を書こうと決心したのですが、これが何かと難しいったらなんのって。

 WEB拍手で読む人は、必ずしもシリーズを読んでいるとはいえないので、シリーズものでない短編小説でないといけないのですが、これが難しかったです。どんなものを書けばいいかほとんどわからなかったんですからね。バトルは短編で書くのは難しいわけですし。

 そんなとき、私の一次創作小説サイトでやっていた花鳥風月をテーマとしたシリーズをポケモン小説にも適用してみようという考えにたどり着き、その結果、「花」がテーマとした第一作を書き上げるにいたりました。

 このシリーズはみな、同じ主人公にするつもりですが、ほかのテーマの内容がまったくの未定なので確定ではありません。まあ、たぶん一緒になると思いますが。

 さて、この小説ですが、もうほぼ前述したとおり「花」をテーマとして書いたつもりなんですが、火事がテーマになってしまったように思えなくもありません。起承転結をはっきりさせねばならないので、タタラせいてつじょを利用してどうなるかを予測して書いてみました。

 もしかしたら、本当にこんなことがいずれかは起こると考えて。

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