螺旋ループ

 清潔感漂う真っ白の部屋。窓から春の気持ちよい陽射しがさんさんと降り注ぎ、蛍光灯をつける必要もないほど明るく、暖かかった。

 その部屋の中で眠っている男が、長い長い世界(めいろ)から抜け出そうとしていた…………。


 彼が目を覚ましたとき、一番最初に映ったのは、ざるのような小さな穴が無数に開いている白い天井だった。彼はそれを不思議そうに見つめ、しかし、それが何なのかと考えもせず、ただ天井を見つめるだけだった。

 何かが、ガラガラがらと音をたてた。彼は不思議な天井を見つめるのをやめ、その音がする方向にゆっくりと首を動かした。彼の目に映ったのは、これまた真っ白な服を着た女性であった。彼はこのとき、この女性が看護婦であることを理解した。それと共に、ここが病院であることも彼は気づいた。

「紺野さん?」と首をこちら向きにしている彼を見ると看護婦は、おごそかに声をかけた。

 少し間があった。

「はい」と紺野は答えた。

 看護婦はその答えを聞き、驚いたようだった。なぜ看護婦がそんなに驚くのか、紺野には理解できなかった。看護婦は驚きつつも、彼に質問を続けた。??目が覚めたんですね??彼はなんとも言えなかった??気分は悪くありませんか??大丈夫です??どこも痛くありませんか??大丈夫です????。

 問答を終えると、看護婦は出て行った。数分後、彼女は医師を引き連れて戻ってくると、今度は医師による診察が始まった。

「どうして、私はここにいるんでしょう?」医師の診察中、紺野は尋ねた。

「あなたは交通事故にあわれたんですよ」と医師は答えた。「それも十年前にね」

「十年前ですって?」

「そうです。十年のときを経てあなたは目を覚ましたのですよ。あなたが入院されたの一九九八年でしたが、今はもう二〇〇八です。??どこも痛くありませんか?」

「どこにも異常はないようです。それにしても本当に十年のときを経て、目を覚ますなんてすごいことです。我々が処置をしたかいもありましたよ」

 医師はそういうと、うれしげに部屋を辞去した。

 それからというもの、紺野雄作はリハビリに明け暮れる日が続いた。十年という時の隔たりが彼の肉体を弱らせていて、リハビリ当初は彼一人で歩くことは完全にできなかった。また、食べ物をとっていなかったから、やせすぎ体型であったのも、歩くことができないひとつの理由であった。しかし、それもリハビリや食事を取ることにより、何の隔たりもなく克服されていった。

 リハビリも進む中、彼は気になっていることがあった。それは、彼が妻子持ちであったのに、その両者とも見舞いに来るどころか連絡もよこさないのである。いったい何かあったのか??それとも、愛想をつかされてしまったのか、と彼は不安に陥った。彼は十年のときを隔てても、まだ見ぬ十年後の妻子を愛し続けていた。その愛する人がこないというのはいったいどういうことなのか……。

 リハビリが大分進んだ後、彼は電話をかけてみたものの「この電話番号は使われていません」といわれ、彼の不安はますます募った。

 ついに、紺野は不安に耐え切れず、やってきた看護婦にこのことを話した。

「こちらも連絡は取っているのですが、いつも出ないんですよ」と看護婦は言った。「あ、でも、入院費はしっかり払い込まれていますし、お元気のようですよ。たぶんお忙しいのでしょう」

「しかし、忙しくても十年も目を覚まさなかった私のところには、合間を縫ってでも来るものじゃないでしょうか??」

「それすらもできないんですよ。とにかく、ご心配されることはないと思いますよ」

 彼はほっとしたのと同時に、嫌悪感を持った。それすらもできないだって! そんなはずはない。絶対に一度ばかりは来るのが筋というものだろう。彼はそんな感情を持ちつつ、リハビリに望んでいたが、彼が退院するまでその感情を、その感情の対象にぶちまけることはならなかった。

 退院すると、彼はさてどうしようと考えた。リハビリの間、有り余るほどの時間があったが、退院後のことはまったく考えてはいなかった。彼はあくまで彼の家族が??どんなに忙しくても??見舞いに来るだろう、と思っていたから、退院後のことなど考えていなかったのだ。

 ??とにかく、家があったところに行こう。

 彼が最後にいた家は、事故にあう少し前に買ったばかりだった。だから、ローンもまだ完済していないだろうし、いったいどうなっているのか、皆目見当も付かなかった。その結果はおのずとわかった。その家の表札には佐藤の文字が書かれていた。

 彼はあまり落胆はしなかった。資金源である自分があのような状態になれば、ローンも払えなくなり、こうなるのも当然だろう。資金源である彼がいなくなれば、いったいどこに引っ越したのだろう?

 彼の親戚や身よりは彼の妻と息子しかいない。彼はとにかく心当たりのある場所へ、妻と息子の行方を捜し始めた。しかし、逆に言えば彼に親戚や身よりは彼の妻と息子しかいないということは、その二人を探し出すほかないということである。つまり、彼ら二人をこの日本の人口一億二千万人の中から探し出さなければいけないのだ。

 それは容易なことではなかった。彼はもとあった家に行ってみたものの、その家の表札は北河とかかっているから、彼の妻と子供の行方の唯一の手がかりはなくなった。彼は途方にくれるしかなかった。二人がよくいっていた心当たりも知らないし、親しい友人はなおのこと知らない。

 彼は探偵を雇おうかと思った。少なくとも生きていることは、入院費が払い込まれていることで確認されている。しかし、彼に探偵を雇うお金はない。当然のことで、彼は仕事をしていないから無一文である。それに退院して、二人がいないとなれば彼は住むところもない????彼は今、ホームレスの仲間入りを果たしたのだ。続いては、乞食に成り下がる可能性だってなきにしもあらずである。

 まずは仕事を探そう。??彼はそう決意した。


 当世??二十一世紀??では、パーソナルコンピュータ??パソコンが大発展している。それは二〇〇一年に発売された世界の大富豪である人物の会社から新基本ソフトウェア??OS??が発売されたことも起因するだろう。それとも、時代がパソコンを求めているのかも知れないが、その辺は定かではない。しかし、このことは二十一世紀に入ってから、大発展したものであって、彼が入院を始めた一九九八年には、彼のような人物が使うほど、パソコンは普及していなかった。もちろん、彼は使ったことがない。よって、彼はパソコンの使い方を知らない。

 となると、当世を乗り切るにはいささか苦しいことであることは、認めざるをえない。彼はその乗り切るための術をほとんど失っていたのである。彼の簿記の能力だけではどうしようもないのである。

 彼は仕事先を見つけるために、四苦八苦し町中を歩き回った。しかし、彼に職を与えるのは時の隔たりがやはり大きかった。パソコンが使えないだけではない。彼の年も十年分加算されてしまっているのだ。五十の壁を越えていると、再就職は難しい。特に事務系に関しては飽和状態であるからなおのことだ。

 四苦八苦し、汗水たらして町を歩く彼に、思ってもみなかったことが起こったのは、それからもう一ヶ月以上たってからのことだった。

 彼はとある会社の面接を終え、その場で不採用の通知をありがたくもなく受け取った。もう慣れっこになってきた彼は、平然とそれを受け取り会社を辞去した。すると、その会社から離れようとしたときに、一人の男性と鉢合わせになりそうになった。彼はあやまり、相手の顔をみると、身が硬直した。

「康雄か?」

 相手は舌打ちをした。確かに相手の名前は康雄といった。それは隠せない事実だった。なぜなら、会社の社員証明書が首からかかっていて、それにしっかりと「紺野康雄」と書かれていたのだ。

 紺野康雄……それは彼の息子の名前だった。

「康雄だろ? 久しぶりだな。どうして、病院に来なかったんだよ。通知はいかなかったのか?」

「来たよ。でも、行くなんてことはありえなかった。ここで会うことだって、ありえない」と康雄は突っぱねた。

「なんだよ、その言い草は」雄作はむっとしたようだった。「十年越しで親が目を覚ましたって言うのに、その態度か」

「何のようだ? まさか説教しにきたわけじゃあるまい」

「今お前はどこに住んでるんだ? それに母さんは元気か?」

 この質問に康雄は眉を吊り上げ、雄作を信じられないというかのように見つめた。その目にはいささか憎悪の念が含まれていることに、雄作はまったく気づかなかった。

「母さんは元気だと思うよ」と康雄はいった。「ただし、天国でな」

「天国だって?」

「母さんはお前が交通事故にあった後に死んだんだ」

「そんな馬鹿な! 母さんが、私より先にあの世にいっちまったっていうのか」

「事実そのとおりだ。これも誰のせいだと思う? お前のせいだよ。すべてはお前のせいなんだよ、母さんが死んだのは」

「お前だって? 康雄、お前父親にむかって????」

「お前はお前だ。おれは絶対お前を親父だとは思わない。おれは、お前がにくい。お前のために入院費なんか払うんじゃなかったよ。お前となんかもう二度とあいたくなかった」

 彼は雄作を押しのけて歩き出した。

「じゃあ、なぜ払った?」雄作は問うた。康雄は足をとめた。

「母さんの願いだからだよ」そういうと、康雄は再び歩き出し、今、雄作が出てきた会社の中へと入っていった。


 やがて、雄作は再就職を果たすことができた。Y不動産という不動産業界の中小企業であるが、なかなかの収益である。この世界の中小企業のランクでは、トップランクの企業であり、雄作自身もよく就職することができたなぁ、と思わず感心するほどだった。彼の希望する事務職は無論ダメで、採用の職種は営業だった。しかし、彼には余裕がなかったし、甘んじて営業を受け入れるほかなかった。

 このY不動産は、一軒家を扱っている不動産屋であり、マンションの一室などは扱っていなかった。というのも、Y不動産は建設会社であるY建設と兄弟会社であり、Y建設が一軒家を主に建設していることがあげられる。価格もなかなか破格の値段で販売しており、サラリーマンの味方というあだ名もついているほどである。

 こういう会社の営業というのは、えてしてきついものである。それを五十歳過ぎた病み上がりといってよい雄作には、大分困難が伴うことであった。彼は、この職は早辞めたいと思うものの、ほかの会社にアタックしても、やはり不採用通知をもらうほかなかった。

 かくして、彼は三ヶ月の時をこのY不動産で勤めたのである。その三ヶ月目に、彼は営業の帰りに康雄の会社へよろうと思った。三ヶ月というもの、忙しくて康雄にこの報告をすることができなかったし、そろそろほとぼりも冷めただろう、と彼は考えていたのだ。

 康雄が会社の中から出てきた。雄作は彼に話しかけると、康雄はため息をついた。

「何のようだ?」と康雄はいった。

「私も再就職が決まって、今日で三ヶ月目なんだ。どうだ、食事でもしないか?」

「お前と食事をするつもりはない????」

 彼の視線が急に下に落ちた。あまりに長い間、康雄がそれをみるものだから、雄作はその視線を追った。

 康雄がみていたのは、雄作の社員証明書だった。中小企業といえど、今の時代どこでもこの手のものはある。今では学校に入るのですらいる場合もあるほどなのだから。

「これがどうした?」と雄作はそれを手に取り、康雄にかかげるようにみせた。

「お前、Y不動産に勤めているのか?」

「そうだ」

「帰れ!」と康雄は囚人に注意をするときのような口調で、雄作は思わずびびってしまった。「お前の顔なんてもう二度とみたくない!」

「いったいどういう????」

「帰れ!」

 康雄は完全に憤怒にとらわれていて、話すことができる状態ではなかった。これ以上話しても水かけ論になるのは、目に見えていることである。この場で雄作がすべき行動は、ただ康雄の命令にいやいや従わざるをえなかったのだった。

 その出来事が、雄作には変な感じをもたらした。康雄は彼が勤める会社であるY不動産について知ると、あそこまでの憤怒をあらわにしたのだ。それまでは、相変わらずの調子であったから、Y不動産というのが、彼にそれほどの憤怒を誘発したのは事実であるに違いなかった。

 では、Y不動産には何があるのか?

 彼がそれを唯一の術は、康雄に聞くしかなかった。彼はその日、もう一度、康雄に会いに行くことを決意した。

 そんな日に、Y不動産に突然人が飛び込んできた。その人物は女性であり、明らかに怒りに満ちているらしい。クレームだろう、と雄作は思った。いかんせん、その女性はクレームをつけてきた。いや、クレームといっては語弊なのかもしれない。彼女のいうことはつまりこうだ。「欠陥住宅だろう、あの家は!」と。

 その女性はしきりに社長を呼べ、と騒ぎ立てた。最初のうちは、雄作を含む営業員たちで処理しようと試みていたが、それでは女性のクレームは止まらなかった。欠陥住宅だ、欠陥住宅だと騒ぎ立て、不動産広告をみていた別の人たちが、Y不動産を避けるようにして去っていってしまった。

 ついに、社長の出番が来ることになったのは、ちょうどこのころである。堂々とした面持ち、風貌で社長は登場した。社長はここではなんですから、あちらの部屋で、と奥の部屋をすすめ、女性はそれに従った。社長とその秘書、クレームをかけた女性は部屋の中に消えた。

「これで終わりだな」と事務員の一人が言った。

「あのX丁目X番の北河さんも不幸な人だよ。よりによって、一人で来るなんてな」

 X丁目X番の北河……雄作には、それが聞いたことのある響きだった。……X丁目X番…………北河……。

 彼ははっと思いだした。X丁目X番の北河……それは、雄作がかつて住んでいた家の住所であり、その家に住んでいる人の苗字が北河だった。あの家が欠陥住宅だったというのか。

 彼はその家のデータが書かれているファイルを探り始めた。別に社員であるから、誰も止めるものもいなかった。ただ、彼を変な目で見る程度だ。

 それには、彼の妻である紺野康子の名が記されていた。そして、その紺野康子が死亡した後、別の人物の手に渡り、それが繰り返され、五番目に今の北河氏の名が記されていた。家が完成して、最初に入居したのは紺野家であり、それから欠陥住宅であるという旨は一言も記載されていなかった。

 つまり、十年前からあの家はずっと欠陥住宅なのだ。それなのに、誰もそのことに関して告発をしていないということになる。

 これはいささか変なことではないだろうか? これだけの人々の手に渡っているのに、それが指摘されていないというのは、変である。そうに違いない。

 これはどういうことか? 結論はひとつ。この事実をY不動産は隠蔽している。

 そうこうしている間にも北河夫人は部屋から出てこない。かれこれ、三十分以上はたっているのに、だ。相当長い間論じ合っているのだろうか。しかし、北河夫人の叫び声のようなものは聞こえなく、とても静かだ。もちろん、応接間であるから聞こえてはいけないのだが、あれほど騒いでいた人の声がまるっきし聞こえないというのも、不思議だ。

 いったいぜんたい何が起こったのか、雄作自身にもわからなかった。しかし、雄作は行動を起こしたのだ。彼は応接間のドアをノックもせず、あけたのだ。

 彼を待っていたのは、青ざめて倒れている北河夫人の姿だった。

 雄作はその姿をみて、少しの間だけ硬直したが、すぐさまドアを閉じて、たっている社長とその秘書たちと顔を合わせた。

「これはなんなんですか?」と雄作は言った。

「見てのとおりだ」と社長が言った。「いずれわかることだから教えよう。こいつは、私たちが管理している家を欠陥住宅だと告発してきたのだ。それも店の前でだ。これは立派な営業妨害であるし、欠陥住宅などということはありえない。こいつで五人目だが欠陥住宅という事実はない」

「これは何だと聞いてるんだ。誰も説明を求めているわけじゃない」

「死んだのさ」と社長は平然と言った。「ありもしないことをわめきたてた罪でな」

「それだけの理由で?」

「私たちの利益を妨げるものは排除する。それが、この不動産のやり方だ」

 雄作はただただ絶句するしかなかった。自分たちの利益を守るために人を殺す……それは、やってはいけないし、ありえないことだ。人としても最低の行為だ。

「まったく五人ともなると、いい加減面倒だよ」と社長は言った。「最初の女といえ、その次の女といえ、まったくよくもまあこんなクレームをつけることだ。みな馬鹿だよ。そんな告発をするのに、警察へはいかないし、一人で来るなんてな。この女も、その女たちのところに行ったことだろうよ」

 そのとき、雄作は顔を上げた。そして、急に社長に飛び掛った。

「どういうことだ、それは?」雄作はそういったが、秘書たちが雄作を止めようと手を出した。しかし、雄作は社長から手を離さずに続けた。「この夫人の前にも人を殺したのか? 最初の女を殺したのか?」

「殺したとも」と社長は平然にいった。「それがなんだというのだ?」

 そのとき雄作の怒りがさらに爆発した。彼は、秘書たちを殴り飛ばそうと試みた。しかし、それは年の差なのかかわまりし、社長から手を離すだけという結果に終わった。しかし、雄作はなんといっているかともわからない言葉を叫びながら、必死にもがいていた。

「おれはお前たちを許さない!」と雄作は応接室を出されそうになったときにいった。応接室のドアは閉まり、彼は放り出された。

 彼はすぐさまY不動産店舗を出て、警察署へと向かった。彼はその最中、先ほどまでの一時間たらずの間にあったことをまとめていた。

 北河夫人は、あの家が欠陥住宅であることを告発しに来たのだ。そして、社長の意思か秘書の意思かはわからないが、絞殺された。その欠陥住宅であるというのは、紺野家があの家に入ったときからのことであったのだ。雄作は自分が仕事尽くめの人物であったことを思いださざるをえなかった。だから、あの家の名義も紺野康子の名であったのだ。つまり、本質的に家を買ったのは康子であり、雄作はそのことは知らなかった。

 そのころ、ちょうど雄作は交通事故にあってしまった。彼は植物状態になったのだ。その間に康子は欠陥住宅であることを指摘したのだろう。そうして、今の北河夫人のような運命をたどらされた、と考えることができる。つまり、雄作の妻である康子を死に至らしめたのは、Y不動産だったのだ。

 このことを康雄は知っていたのだ。だから、Y不動産に勤めたと知ったときの康雄の態度がひどかったのだ。彼の母を殺した不動産屋に彼が就職したのだから、無理もなかろう。なぜ、康雄が告発しなかったのは、証拠不十分で相手にされなかったのだろうということは容易に想像が付く。

 ??このことを警察に全部話そう。腰をあげなくても、なんとか腰をあげさせてやらなければ、いけないんだ。

 時刻は昼間だった。往来にはたくさんの車が行きかっている。あまり大きな道路ではなく、四車線しかなく、バイパスのような道路が多くある。

 雄作はそのバイパスのような道路をわたる横断歩道に差し掛かった。そのとき、四車線の道路から一台の車が走り出してきて、雄作がわたっている横断歩道の先にあるバイパスに入ってきた。雄作は、それに気づいたがどうすることもできなかった。

 雄作は車に弾き飛ばされ、車のタイヤの下敷きとなった。

 車はそのまま走り去った。雄作は、ただただその場にうずくまるだけだった。通りかかる人々が彼に話しかけ、そして電話をする姿がみえていた。それだけだった。雄作の最後の世界の姿はそれだけだった。

 雄作の動きのすべてが停止した。

あとがき

 習作第一作です。「時の沈黙」とは違う「時間」をテーマで書いた今作「螺旋ループ」でしたが、形が定まってなかったせいか、すこぶる駄作になってしまいました…………。

 この作品「螺旋ループ」では、時は繰り返されるということをテーマにして書きました。つまり、歴史上で起こったことはまた繰り返されるという、時間の考え方を基にしてみました。それがラストのシーンなのですが、それは二重で繰り返されていることになっています。このことから「時の沈黙」の時間の停止というテーマとは大分かけ離れています。

 テーマ的には悪くないので(もちろん「時間」の考え方ですからね)いつかリベンジできればいいなぁ、と思っています。

もくじ