岬の風

 海風が強く当たる岬の上にある小さな民家。二階もない一戸建てだ。

 部屋から海を一望することができるという絶景の民家で、宿として泊まることもできる。

 民家といえども、孤立しているため人などあまり来ないのだが、隠れたファンによってたびたび訪れられている。

「こんにちは」

 日差しが強い夏の日の昼間。その民家に一人の青年がやってきた。

 彼はこの民家の隠れファンの一人だ。

「おやおや、久しぶりだね。さあ、中に入りなさい」

 民家にいる一人のおばあさん。彼女こそこの民家に住んでいる女将である。

 中に入っていった青年はリビングのような広い部屋のソファに座り込んだ。

 そして、女将にお茶を頼むと外の美しい海を眺めた。

 青き海。けがれなき海。その日の海はとても綺麗であった。

「相変わらず綺麗な海だね」

「おかげさまで。このあたりはまったく人がこないもんですからねぇ。ごみなんていうものを捨てていくなんてことはありませんから」

「そのせいでこのすばらしい景色を見れる人が少ないのが現状ですがね」

「それでいいじゃありませんか。たくさんの人が訪れてこの海が汚れてしまうよりかは。本日はご宿泊ですね?」

「ああ」

「それでは準備をいたします。少々お待ちください」

 女将はそう言うと部屋の中にあるドアに入っていった。

 そして数分で出てきて準備が整ったことを青年に伝えた。

 その晩。女将と青年は一緒に夕食をとっていた。

 青年は何度もここに来ているため、女将とは仲がよく、一緒に夕食をとるのがほとんどだった。

 それは民家にいつも一人でいる女将のことを気遣ってのことでもあり、このようなすばらしい景色が見える民家を支えたいという青年の気持ちからであった。

「おや? そろそろ来たようですねぇ」

 夕食を終え、しばしテレビを見ているときのことだった。

「なにが来たんですか?」

「おやおや。何も知らずにこちらへ来たのですか?」

「はあ、そうですが。一体なにが来るんですか?」

「台風ですよ。この岬に直撃です。テレビのチャンネルを回せばニュースをしていると思いますよ」

 青年は見ていた番組から別の番組へとどんどんかえていった。

 すると、確かにこの岬に??岬がある半島だが??台風が直撃するとのニュースがなされており、岬から一番近い海岸でレポーターが生中継でレポートをしている。

 どうやら、風がなりつつあるようで、あと三時間もしたら風はいっそう強くなるだろうとのことだ。

「ありゃりゃ本当だな。この家は大丈夫なんですか?」

 青年はここには何度も来てはいるが台風に直撃する日に遭遇したのは初めてだったため、少し気になった。

「大丈夫ですよ。何度も何度も直撃していますからねぇ。ただ、そろそろボロが来ているかもしれませんがね」

「おいおい、じゃ、少し見て回りましょうか?」

「いいですよ。あなた様にそんなことをさせるわけにはいきませんよ」

「しかし、それをしないと気がすまない」

「では、私が見てまいりましょう。あなた様はごゆっくりしていらしてください」

 女将はそう言うと部屋を出て行った。どうやら、本当に外へと出て行ったらしい。

 青年はそれが気になりテレビを見ている気持ちなどになれなかった。その番組がお笑いだったため、さらにだ。

 青年はいてもたってもいられず外へと出て行った。そして、民家の外側へと行くとそこに女将がいた。

「やっぱりやりますよ」

「いえいえ、これは私がやるべきことですから。どうぞゆっくりしていらしてください」

「ゆっくりなどできないよ。さあ、おれがやるよ」

 青年はそう言うと点検を自分でやり始めた。女将はその後に続いていく。

 それから数十分で民家の外の点検は終わった。そのときには風が強くなってきていた。

 女将と青年は中に入り、暖かい飲み物を女将は青年に渡した。

「ところで、あなた様は昼の海を見ましたね?」

 温かい飲み物を渡し青年が一杯飲んだ時女将は言った。

「見たがそれがどうかしたんですか?」

「いつもより穏やかだったと思いませんでしたか?」

 青年はそのときの海の様子を思い浮かべた。そして、前来ていたときの海と比較してみた

「そういえば穏やかだったような気が……」

「そうでしょう。あれは台風が来る予兆ですよ。嵐の前の静けさという奴ですね。ところで、あなた様はいつお帰りです?」

「明日帰るつもりですけど」

「それでしたら今日中にお帰りになられたほうがいいです。明日は台風が来て車など走らすことなどできませんよ」

「そこまで強くなかろう」

「いえ、この半島の台風直撃というのはそれほどの威力があるのです」

「そうなのか……。まあ、別に絶対に明日帰らなければいけないってことはないから今日は泊まり明後日にでも帰ることにしよう」

「わかりました」

 次の日。風は一段と強まっており、女将が言ったとおり、車など動かせそうな状況ではなかった。

 正確に言えば、風当たりが悪ければ車が倒れそうという状況である。

「本当に風が強いな……」

 青年はそう思いながら、テレビの電源を入れた。

 すると、ニュースをやっていたため、それを見ていると「今晩が一番強くなるだろう」とのことだった。

 今の状態でも強いのに、さらに強くなるとはどんなものだろうと青年は思った。

 その日の晩。青年と女将が眠っているときのことだった。

 風はニュースでやっていた通りいっそう強くなっており、窓ががたがたと音を立てているときのことである。

 リビングからガラスが割れるような音が聞こえたのである。

 青年はその音を聞き飛び上がり、リビングへと出た。すると、そこにはガラスの破片が散らばっており、強い風が吹き抜けている。

 窓付近は雨によりぬれている。

 青年がその光景を目にしていると女将も向かいの部屋のドアからその様子を伺っていた。

「これは大変なことになりましたねぇ」

「そんなのんきに構えていていいんですか? このままじゃこの部屋はびちゃびちゃですよ」

「仕方ありません。今、片付けをすると、残っているガラスが飛んできて怪我をする場合がありますからこのままにしておくのがいいと思いますよ。びちゃびちゃになっても後で拭けばいいだけのことですから」

「はぁ、じゃあこのままにしておくんですね」

「はい。また、明日になったら片付けますよ」

 青年は部屋に戻り眠ろうとしたが、眠ることなどできなかった。

 リビングはあのような状態だし、窓ががたがたといっておりうるさいのだ。

 しかし、青年はやっとの思いで眠ることができた。

 次の日。青年がおき、窓の外を見てみると、とても日が強くいい天気だった。

 リビングに出てみると、そこでは女将が掃除をしていた。

「あら、おはようございます」

「おはようございます。お掃除ですか?」

「ええ。びちゃびちゃでしたからね。ガラスのほうは先に掃いておきましたので、大丈夫ですよ」

 青年はそう言われるとリビングへと出て、洗面所へと向かった。

 そして戻ってくると、女将の手伝いを始めた。

「いいですよ、私がやりますから。あなた様はごゆっくりなさってください」

「いやいや、手伝いますよ。一人じゃ大変でしょう」

 青年はそう言い手伝いを続けた。

 そして、一時間後にはリビングでお茶を飲んでいる青年の姿があった。

「手伝ってくださりありがとうございます。おかげさまで早く終わりましたよ」

「どういたしまして」

「しかし、あなた様にはいろいろとご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございませんでした。何もこちらはしませんで」

「いやいや、このような民家に泊まれるようにしてくださってるお礼の一環ですよ。ところであれはどうします?」

 青年は海を指差した。

「ああ、ガラスですね。ガラスなら地下室のほうに予備がありますので、それをはめれば大丈夫でしょう」

「そうですか。しかし、潮風が気持ちいいですね」

「はい。昨日のような風とは違います。風は私たちをやさしく包んでくれ恵を与えてくれます。ですが、力が増大すると台風のようなものとなり私たちを脅かします。その二つの顔を持つ風を私たちは受け入れなければいけませんね」

 女将はそう言って部屋を出て行き、ガラスを取り付けた。

 そして、青年は民家を後にし、フェリー乗り場へと向かうのだった。

あとがき

とりあえず初の短編小説です。

なんか意味がわからない小説ですが、とりあえず風を主題として書いたつもりです。

突然の発想から小説を書くことが多い僕なので、どのような結論からこのような小説を書いたかは自分でもわかりません。

とりあえず、変なところも多々ありますが、温かい目で見ていただければ幸いです。

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