探偵対怪盗

 探偵の西山彩菜が初めて手がけた事件が解決してから二週間がたち、都心部から少し離れた場所に構えている西山探偵事務所は新年を迎えていた。しかし、新年も数日たったが事務所に依頼が舞い込むことはなくやはり彩菜は退屈していたのだった。

 そんなある日、事務所の中にチャイムが響き渡った。彩菜がドアを開くとそこにはやせぎみの背の高い黒髪の男がそこに立っていた。

「お久しぶりです、探偵さん」彩菜の姿を見るなり男は言った。

「あら、あなたはこないだの事件の??辻風君でしたっけ?」

「はい、辻風新次です」

 彩菜は彼を中のソファに勧めそこで話すことにした。

「ところで今日は依頼でも?」彩菜は訊いた。

「いえ、依頼するほど金は持ってませんよ。フリーターですからね。実はそのフリーターを卒業したいんですよ??」

 新次はまだ話を続けるつもりだったようだが、彩菜がそこでそれをさえぎった。

「つまり、ここで働きたいわけですか? ほら、あなた探偵に興味があるようだったし」

「ずばりそのとおりです。さすがですね」

「それは無理よ」彩菜は彼の言葉を無視していった。「恥ずかしいことに最近じゃ依頼はめっきり少なくて人を雇えるほどのお金はないのよ。別の所をあたってもらえる?」

 その言葉を待っていたかのように新次は少し笑みをこぼし言った。

「いえ、実はそんなことだろうと思いましてちゃんとプランを考えてきてるんですよ」

「プラン?」彩菜は少しむっとして訊き返した。

「はい。俺はフリーターで金がないにもかかわらず、パソコンとインターネットの接続環境だけは整っていましてね。ここに来る前にいろいろこの事務所のことを調べていたんですよ。その時、この事務所にはホームページがないことを知ったんです」

「じゃあ」と彩菜は口を挟んだ。「この事務所のホームページを作るから雇ってくれってことかしら?」

「そう言うことです。ホームページを作れば、日本の名探偵である西山乱夢探偵がいた事務所ですし少しは依頼が増えることだと思いますよ」

「確かにホームページを作れば依頼が増えたという話しはよく聞くけど、本当に依頼が来るまでになるかしら?」

「なりますよ」新次は得意げに言った。「数々の企業がホームページを作って仕事が増えたっていうデータもあるわけですし」

「いいんじゃない」と、不意に二人の耳に第三者の声が入ってきた。

「お母さん」と彩菜は言った。

 彩菜の母、西山鈴代は五十代の女性でメガネをかけている西山探偵事務所の経営者である。乱夢と共に経営をしているのだが、乱夢がロンドンへ渡っているから鈴代一人で経営をしている。

「ホームページで依頼が増えるものならまたとないチャンスじゃない」

「でも、本当になるかどうか??」

「あなたお名前はなんというの?」

 鈴代は新次に訊ねた。新次は自己紹介をした。

「辻風君、ホームページを作ってくださるかしら?」

「はい、ぜひともやらさせていただきます」

「じゃあ、今日から早速作って頂戴。パソコンは彩菜のものを使うといいわ」

「お母さん!」彩菜は言いながら立ち上がった。

「まあまあ怒らないの、彩菜。ただし、条件があるんだけどいいかしら?」

「条件??ですか?」

「ええ。もしホームページを作って依頼がなかったらあなたのお給料はお払いできませんよ。こちらもお金がなくて困っているんですからね」

「いいでしょう」新次は強気で言い返した。「それでここに勤めさせてもらえるなら」

「そう、じゃあお願いしますね、辻風君。彩菜それでいいわね?」

「ダメといっても押し通すんでしょ? だったら無駄な時間を使うだけだわ」

「じゃあ決定ね。ささ、辻風君。早速お願いね」

「はい」

「やっぱり」新次が椅子に座りパソコンを使い始めると彩菜はつぶやいた。「決定権はお母さんが握ってるのね」


 新次がやってきてから数週間がたち彩菜は大学の講義が始まり事務所を留守にすることが多くなった。新次は自分のパソコンを持ってきて探偵事務所のホームページを作ることになり、彩菜のパソコンは無事に彩菜の手に戻った。それはよかったのだが、結局依頼はこないままだった。

 だが、二月の金曜日についに待望の依頼が舞い込んだ。

 その日、彩菜が大学から帰ってくると事務所の接客用ソファに中年の男性が座っていた。

「あ、お帰り彩菜。こちら依頼者の方だよ」

 新次は彩菜の姿をみるとそういった。ここ一ヶ月で彩菜に対する言葉は普段の話し方と同じになり、敬語で二人が話すことはなくなっていた。依頼がなければ新次と共にいる時間は増えたし、敬語で話すのは面倒だという二人の考えからそうなったのだった。

 さて、依頼人は中年にしては白髪が少なくきれいなスーツをきて紳士のように思えた。

 彩菜が相手の反対側のソファに座ると言った。

「どういうご依頼でしょうか?」

「わたしは川上豊と申します。実は昨日、この手紙がわたしの家のポストに入っていたのです」

 川上はそういうとポケットから一枚の手紙を取り出した。それにはこうかかれていた。

 次の日曜日午後十時にあなたが持っているエメラルドスターを頂戴に参上する。

 怪盗シーファン

「警察には行ったのですか?」

 それを読み終えると手紙を返しながら彩菜は訊いた。

「行きました。しかし、この怪盗シーファンという怪盗は今まで警察の名にあがったことがないのであまり警備員が来てくれないのです。だから、こうして探偵さんにも護衛を頼もうと思いまして」

「それでは怪盗シーファンというのは新しい怪盗ということですか?」

「そういうことだそうです」

「いいでしょう、依頼をお受けいたします。ところで、エメラルドスターというのはなんなのでしょうか?」

「わたしの家は昔から豊かであるとはいえなかったのですが、代々エメラルドスターと呼ばれる宝石が伝わっているのです。何でも完全にエメラルドでできており、希少価値は何千億円もするとか」

「何千億円!」新次は思わず叫んでしまった。だが、それを無視して彩菜はいった。

「それは怪盗が狙うわけですね。セキュリティ面はどうなんでしょうか?」

「防弾ガラスでできたガラスケースに入れているだけです。今までこのエメラルドスターのことを話したことはなく、誰もこんなものがあることを知らなかったのですからたいしたセキュリティはしていなかったのです」

「なるほど。では、明日の午後にお宅へお伺いすることにいたしますので、こちらに住所をお書きください」

 彩菜はメモ用紙を机から取り相手の住所を書かせた。書かせ終わると今日は帰っていいといい依頼人は事務所を後にした。

 新次は依頼人が後にしてから言った。

「いまどき怪盗なんて珍しいものだ! 怪盗なんて小説やアニメの中のものだけだとばっかり思ってたのに」

「実際、石川五右衛門とか大泥棒はいたから小説の中だけとは限らないと思うけどね。さて、私はレポートを書かなくちゃ。これがかけなきゃ明日行けないもの」


 翌日に川上の自宅へ彩菜と新次が訪問すると、警備員がすでに数名たっており彼女らが入るのを拒まれた。しかし、川上本人が通してよいと許可をしたため彼らは入ることができた。

「もう、警備員は来ているんですね」と新次は言った。

「はい。警察の名誉を守るためだとは思いますけど。なんせ、無名の怪盗でも盗まれたら警察の顔がたちませんからね」

「そんなものよ、警察なんて」彩菜は小さくつぶやいた。

 川上の家は中古の一戸建ての二階付きで一般家庭の一戸建てより少し小さい家だった。なるほど、こんな家に数千億円の価値を持つ宝石があるとは到底思えない。むしろ、本当にこんな家にそんな宝石があるのかと疑いたくなるほどだった。

 川上に案内され二人は小さな書斎に通された。その書斎は二階にあり窓は一つしかなくベランダはない。窓からは大きそうな木の姿が見える。真ん中にはガラスケースに入れられたエメラルドがある。それは防弾ガラスの中にあるにもかかわらず綺麗に輝き、防弾ガラスを取ればさらに綺麗に輝いているのだと彩菜は思った。ガラスの周りには二名ほど警官が警備にあたっていた。

「入れる場所はこのドアと窓なんですね?」新次は川上に尋ねた。

「そうです。屋根裏部屋はこの部屋にはつながっていないので天井からの進入はまず無理でしょうし」

「宝石はもともとこの部屋に置いてあったのですか?」今度は彩菜が尋ねた。

「いえ、普段は宝石箱に入れているのでここにはありません。宝石箱といってもエメラルドスターしか入れていませんし、取られてもわかりにくいということから急遽ガラスケースに入れて外に出しています。怪盗シーファンも宝石箱にあることを知っているでしょうからそっちに手をかけるだろうと思ってます。
 それにこのエメラルドスターの輝きがすばらしいので、これからは書斎にこうして飾っておきたいと思っていますよ」

「そうですか。しかし、宝石箱に入れておいたほうがいいと思いますよ。宝石箱に鍵をかけ引き出しにも鍵をかければ取られる可能性は低くなると思います」

「ですが、それだと怪盗シーファンがあらかじめ鍵を用意しておけばたやすいでしょう。警備員がこのようにしてやったほうが確かだとわたしは思います。それに書斎を選んだのは本棚とかが邪魔になるからで、ちゃんとしたセキュリティ完備はしてあるんです」

「しかし??」

「警備に関しては万全です。西山さんは怪盗シーファンがどこから来るかなどの対策をしていただければいいのです。さて、他の部屋にご案内しましょう」

 彩菜は不快だった。「所詮、自分のような探偵をこの人は信じていないのだ」と知ったからだった。何もかも自分の作ったセキュリティが安全だと思い込んでいる。しかし、依頼は依頼であるしやるべきことはやらねばならない。他の部屋に案内してもらうことだけはした。

 全体を回って彩菜が知ったことは他の部屋からや屋根裏部屋から書斎に通じていないということだけだった。つまり、書斎の出入り口は二つ??窓と入り口のドア??だけだというのを裏づけただけだった。

「では、わたしは少しやることがありますのでこちらでお休みになられてください」

 川上はリビングに二人を残しどこかへと行ってしまった。川上が出て行くと新次は言った。

「どうやら、書斎は安全なようですね。入れる二箇所をちゃんと見張りさえすれば外部から進入することはできないし」

「安全ではないと思うわ。例えば、机の下に隠れるとか本棚の後ろに隠れることはできるもの。むしろ、何もない部屋のほうが安全性は高いと思うわ。まあ、そんなとこに隠れた怪盗なんてのはいないでけど。怪盗って華麗にものを盗んで行くんだものね」

「じゃあ、どうやって盗んでいくんでしょう?」

「私が考える限り、変装して部屋に堂々と入り込み盗むと思うんだけど誰に変装するかよね。まあ、それは入るときに変装チェックをすれば問題ないことだけど」

「なんと簡単な事件なんだろう」新次はため息をついていった。「もっとはらはらした事件がよかったのになぁ」

「事件をそういう風にみないの。小説の中じゃないんだからね。さて、もうやることもないようだし私たちは事務所に帰ることにしましょうよ。犯行は明日なんだからね」

 翌日午後三時ごろに彩菜と新次は川上の家へと再度訪れた。昨日よりも警官が増えており、厳戒態勢に入っている雰囲気だった。犯行まであと七時間……怪盗シーファンがもしかしたらすでにこの中にいるかもしれないのだ。だが、家に入るときは変装チェックが行われ彩菜と新次もその例外ではなかった。

「もう、顔を引っ張るなんて最低!」

 彩菜は変装チェックが終わるとぼやいた。

 新次も変装チェックを潜り抜け家の中に入ると川上が出迎えてくれた。その表情は緊張しているようで落ち着きがなかった。彼は二人を書斎へと連れて行き、書斎の警備状況について彩菜に尋ねた。

 書斎の警備状況は完璧だった。窓には二人の警官が配備されガラスケースの四方にも警官が一人ずつ配備されている。ドアの横にも警官が二人配置され、他に刑事が三名ほどいた。

 その刑事と彩菜の視線が会うと刑事は言った。

「あんたが探偵か。悪いがここは探偵のやる仕事じゃない。帰ったほうがいいと思いますがね」

 彩菜はその言葉に不快だったが、平然と返答した。

「あら、それは刑事さんも同じじゃないですか? 最近、怪盗なんて泥棒はでませんからね。刑事さんたちだけで捕まえられるとは限りませんよ」

「この警備体制でわれわれ三人も刑事がいれば怪盗シーファンなどという聞いたこともない怪盗がこの宝石を盗めるわけがあるまい。探偵はいるだけ無駄だ」

「まあ、それは後々はっきりするでしょう。ところで、川上さん。まだ時間はありますし家の中の警備体制をみせていただけませんか?」

 川上は同意し、書斎を後にして残りの部屋をみに行った。残りの部屋の警備はたいしたことなく各部屋に一人ずつ廊下には二人ずついるだけだった。バスルームやキッチンなどの場所には配備されていなかった。部屋の窓から庭にも警官が二名配置されているのが彩菜にはわかった。

 そこをみるとやはり再度リビングで彩菜と新次は時間まで休憩することにし、川上は書斎へと戻った。

「怪盗シーファンはつかまりそうですか?」新次は尋ねた。

「まあ、警備体制は万全だと思うわ。でも、怪盗シーファンの初仕事みたいなわけだしどんな手口でやってくるかがわからないからなんともいえないわ。変装して盗みだすにしても変装チェックをやってるし。それにしてもあの変装チェックって最低ね! 思いっきり顔を引っ張るんだもの??私にも容赦なくね」

「宝石が盗み出されたら大変ですから、女性も男性も変わらないんですよ」

「だからってもう少しやさしくはできないのかしらね」怒ったように彩菜は言った。

「それよりどうなんですか、怪盗シーファンの逮捕については。何か対策でもあるんですか?」

「きたときを捕まえるしかないわね。そうだ、ブレーカーのところに警官を配置させるように言ったほうがいいわね。??ブレーカーを落として暗い中で盗むってよくある話しだし」

 彩菜はそのことを一人の警官に伝え、ブレーカーの位置に一人警官がつくことになった。ブレーカーは玄関にあった

 夜に入り午後十時二十分前だ。彩菜と新次は書斎で刑事三人と警官たちと共に緊張の面持ちで時を待っていた。

「川上さんはどうしたんでしょうかね?」緊張した空気の中新次はひそひそ声で彩菜に訊いた。

「宝石が盗まれる瞬間をみたくないからこないのかも??私にはわからないけど」

 それから十分たつとあまりの緊張した空気にトイレに行きたくなったといい新次は書斎を後にした。

 さらに五分たつと書斎のドアが開いた。彩菜は新次だと思っていたがそれは意外にも川上だった。

「悪いね、トイレにいたもんだから」

 午後十時一分前。書斎内の空気に緊張が走り、室内にいる人たちはみな緊張面になっている。どこから怪盗シーファンは現れるのか? そしてどうやってエメラルドスターを盗むのか……。彩菜は辺りを見回しながら考えていた。

 午後十時! ……書斎内は沈黙したままだ。一秒一秒が流れて行きついに一分たっても何も起こらなかった。エメラルドスターはガラスケースに入れられたままでその輝きは最初にみたときと同じ??本物だ。

「なんだ、いたずらだったのか」緊張がとけてきた空気の中で川上は言った。「これで安心だ。いやあ、ご苦労様でした警察の方々。あの予告状はどうやらいたずらだったようですね」

「しかし、怪盗とは予告状を出したからには必ずでも宝石は手に入れるはずです」と彩菜。

「ふん、この警備の厳重さに盗むに盗めなかったんだよ。そんなこともわからないのか探偵さんよ」刑事の一人がいやみたっぷりに言った。「よし、じゃあ帰るとするか」

 刑事と警官たちは続々と書斎を後にして行ったが彩菜は書斎に残っていた。

「どうしたんですか? あなたは帰らないんですか?」警察たちがいなくなると川上は言った。

「ええ、新次がこないと帰れないんですよ。まったく、いつまで私を待たせるつもりなのかしら」

「まあまあ。さて、わたしはこの宝石を宝石箱に戻すことしましょうかな。無事に宝石は取られなかったわけですしね」

 川上はそういうとガラスケースを取りエメラルドスターを手に取った。彩菜はその光景をみてふっとこの家に来たときに川上が言っていた言葉を思い出した。

「ちょっと待ってください」

 川上がエメラルドスターを手に取り部屋を出ようとドアに近づいているとき彩菜は川上の前に立ち言った。

「川上さん、あなた言いましたよね。『このエメラルドスターの輝きがすばらしいので、これからは書斎にこうして飾っておきたいと思っていますよ』と。あなたいまそれを宝石箱に戻すといいましたよね? どういうわけですか?」

 川上の顔に一瞬戸惑いの表情が浮かんだと彩菜は思ったが、それが本当かどうかわからないほど一瞬のものだった。川上は平然と言った。

「気が変わったんですよ。ここに警備なしにおいておくとやはり危険ですからね。宝石箱に戻そうと思っているんです」

「そうでしたか。しかし、ちょっとあなたの顔をひっぱらさせていただけませんか? ??宝石をお守りした報酬の代わりとして」

 彩菜がそういうと川上は笑い出した。

「この男がそんなことを言っていたのか」と川上は言った。「それは聞き落としていたな。やはりもう少し入念にことを調べておくべきだったよ。君のその要求については同意できないよ。そんなことをしたらわたしの素性がばれるだけだ」

「じゃあやはりあなたが怪盗シーファン……。本物の川上さんはどうしたの?」

「トイレで寝ているよ、君の相棒と一緒にね」

「なるほど。あなたはトイレで本物の川上さんと入れ替わり、そのときにばったりと新次に会ってしまった。その場で新次を気絶させたとまあこんな感じかしらね」

「いかにも。まあ、素顔がみられたわけではないのは運がよかったがな。さて、ではこれで失礼することにしよう。西山探偵、あなたのその注意深さには敬意を表するが俺を捕まえることはできない」

 怪盗シーファンはそういうと煙花火に火をつけ辺りに煙を充満させ始めた。

「さらばだ、西山探偵」

「待ちなさい!」

 彩菜は辺りが見えないにもかかわらず手探りで怪盗シーファンを探した。だが、見つからず窓が開く音と共に煙がそこから逃げ出して行った。彩菜は窓に駆け寄り外をのぞいた。しかし、そこに怪盗シーファンの姿はなかった。

「取り逃がしたようね……」

 怪盗シーファンを取り逃がした彩菜はトイレに向かった。怪盗シーファンが言ったとおりそこには川上と新次が倒れていた。彼女は二人をゆすって起こした。すると、新次はすぐおきた。

「大丈夫?」彩菜は声をかけた。

「あれ、彩菜。こんなところにいて大丈夫なのか?」

「もう十時はとっくに過ぎて警察も帰ったわよ??エメラルドスターはきれいに盗まれちゃったけどね。まあ、そのことについては事務所に帰ってから話してあげるわ。それより川上さんを起こすのが先よ。なんで、よりによって新次からおきるのかがわからなかったわ」

 このとき彩菜はあることに気がついた。新次の髪が乱れているのだ。まるで激しい運動をしたかのように。彩菜はそのことに触れると新次はいった。

「階段を急いでおりたからな。ほら、十時まであんまり時間なかったし」

「そっか。ならいいんだけど」

 彩菜は川上を起こし事の次第を告げ、事務所に戻った。この事件の失敗はとても悔しいものだった。

もくじ