キンセツシティ西にある育て屋は、一見してはただの小屋のような家である。そこに育て屋があると知らなければ、一般の民家として見過ごされそうである。実際に、ルリカは見逃しそうになった。
ドアをノックしてみた。
「だれもいないのかな?」
再度ノックしてみた。だが、返答がなく、ルリカは留守なのかと思った。それから何回かノックしてみたものの、何の返答もなく留守という結論に達した。
その結論に達するや否や、次の行動をどうするかを考えた。一一七番道路にある育て屋からさらに西に行けば、次のコンテストが開催されるシダケタウンにつくのは承知していた。だが、シダケタウンに行けば、育て屋に戻ってくるのは大変である。だから、最寄の町であるキンセツシティで時間をつぶし、ここに戻ってくるほうがいいと思われた。
とはいえ、シダケタウンのコンテストがいつ何時開催されるかを知らないルリカは、早めにシダケタウンに到着すべきなのではないか、という考えがあった。いっそのこと、育て屋さんを訪問するのはやめたほうがいいのではないか。
「何をしておるのかな?」
そう考えていると、一人のおじいさんがルリカのところへとやってきて、話しかけてきた。
「あ、いえ、ちょっと考え事を」
「もしかして、育て屋に用事があるんじゃないのかね?」
「あ、はい。でも、留守だったようなので……」
「留守なわけはあるまい。ほれ」
そういいながらおじいさんはドアをあけた。中には、一人のおばあさんがおり、どうやら眠っているらしかった。
「ほら、ばあさんや。お客さんだよ」おじいさんはいった。
それをきいたおばあさんは、ゆっくりと目を開き、体を起こした。目の奥はまだ眠そうで、にらみつけているようだったので、ルリカは一瞬身震いがした。
「君は初めてだね」おじいさんはルリカをみながらいった。「育て屋は出入り自由だから、外で待ったりすることはないからの。まあ、ばあさんがいなかったら、しまっておるが」
「それで、どの子を育てるんだね?」とおばあさんが初めて口を開いた。
「あ、いえ、私は育ててもらうために来たんじゃないんです。実は、ポケモンの育て方を教えてもらおうと思いまして」
「ほう、ポケモンの育て方とな」おじいさんがいった。「はて、それまたどうしてかな?」
ルリカは、カチヌキファミリーと戦ったときのこととハルヒコのいったことを話した。
「なるほど、それで育て方をね」おじいさんは納得した。「まあ、教えてやらんわけではないが」
「おじいさんがですか?」ルリカは少し面食らった。
「そうさ。育て屋は、わしとばあさんでやってるからね」
ルリカは、二人を見比べてみた。確かに、どちらも似たような年齢をしているように見えた。とはいえ、老人はみんな似たり寄ったりなので、確信はもてなかったが。
それから、ルリカは、ポケモンの育て方をおじいさんとおばあさんに教えてもらった。基本のきの字からめいいっぱい。
コンテストをしている人の人口よりも、バトルする人口のほうが圧倒的に数は多い。そのため、バトル向けの育て方を教えてくるだろうと思っていたのに、コンテストをしていると告げたらコンテスト向けの育て方を教えてくれたのに、ルリカは驚いた。
「ポケモンの育て方はさまざまだからね」とおじいさんはいっていた。
基礎を教えてもらったルリカは、次に木の実の大切さを教えてもらうこととなった。その説明の土台となるのは、トウカのもりであったクリミさんの話と類似しており、説明の意味を理解するのは、たやすかった。
一通り説明を受けたルリカは、これで暇を告げる時間となった。
「次はシダケタウンで開催だったね?」別れの言葉をルリカが告げると、おじいさんはいった。「だったら、シダケの大会には出ないほうがいいかもしれん」
ルリカは少々面食らったように「どうしてですか?」
「シダケタウンは、今まで君が挑戦したコンテストより参加者数が多いんだよ。今の君のアゲハントじゃたぶん無理だと思うんだ。コンテストに参加しているより、ポケモンを育てておいたほうが今後のためだと思う」
「でも、それだけコーディネーターがいるコンテストだったなおさら参加しないといけないと私は思います。育てるよりコンテストの勉強もしなければいけませんから」
ルリカはそういうと、最後の礼を告げて、シダケタウンへと向かった。
第九話終了第十話に続く……
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