暗い暗い森の中。あたりは静まり返り、太陽の光も木々でふさがれているトウカのもり。以前、ここで迷ったことがあるルリカはそのときとまったく変わっていないトウカのもりの様子に驚いていた。
暗い森の中を歩き続けると、以前来た時にルリカとハシミがリングマに追いつめられたあの岩壁のところへたどり着いていた。やはり、以前とまったく変わっていない。
ルリカはこの場所でいったん足を休めアーティーの練習をしようと決意した。さほど急ぐ旅でもないし、この場所にはたくさんの野生ポケモンたちがいる。ぎんいろのかぜを覚えさせるにはちょうどいいかもしれない、と思ったからだ。
早速、アーティーをボールからだしコンテスト用の練習をはじめ、近づいてきた野生ポケモンはかぜおこしで倒していった。
次第に夕暮れが近づいてくる。疲れきったアーティーだったがまだぎんいろのかぜを覚えることはなかった。ルリカはオレンのみをアーティーに食べさせてボールに戻し、休めそうな場所を求めあたりを歩いていた。
「参ったなぁ。昼間に探しておくんだった」
あたりは闇で完全に覆われていた。どこからか野生ポケモンの声が聞こえる。あたりは木々ばかりで眠れそうな場所はなかった。もしかしたらあったかもしれないが、闇であたりがしっかり見えないため見落としていた。
次第にルリカは恐くなってきた。あのリングマの恐怖がよみがえってくる。普段は強気なルリカだがやはり女の子である。恐怖には勝てない。恐怖に駆られるルリカに一筋の光明が飛び込んできた。ルリカはその光の先に向かっていった。
そこには一軒の家が立っていた。木造の家で煙が出ていない煙突があり、四角い窓から光が外に漏れていた。ベルがなかったのでドアをたたいた。少しするとドアが開き、中から四十代ほどの女性が出てきた。足元にはジグザグマがいる。
「どうしたの?」と、女性は優しい口調で訊ねてきた。
「今日、泊まるところがないんです。もしよかったら泊めていただけませんか?」
女性は少し戸惑った。だが、ルリカの困った顔をしているのを見ると家の中に招いた。
ルリカは近くのソファに座るように進められた。この家の中を見ていたルリカはインテリアに凝ってるんだなぁ、と思った。洋風な引出し、美しい模様が入ったじゅうたん、戸棚などが綺麗に並べられている。
ルリカはこの暖かいホウエンに暖炉――どちらかというとマントルピースがあることに驚いた。上には写真縦が入っており、写真には女性とマッスグマの絵が写っている。そのマッスグマにはリボンが五つついていた。
「はいどうぞ」
女性が戻ってきて、ガラスコップに入れてきたオレンジジュースを差し出してくれた。ルリカはお礼をいい、それを飲むと女性に訊いた。
「あの、もしかしてコーディネーターなんですか?」
「ええそうよ。あの写真を見たのね」
女性は立ち上がり写真を取り、続けた。
「もう、何十年も前の話だけどね。いまじゃ、もう引退してます」
「そうでしたか」
女性は写真を戻してテーブル越しのソファに座り、訊いてきた。
「もしかして、あなたもコーディネーター?」
「一応コーディネーターです。まだまだ新人ですけど」
「そう。もしよかったら、ポケモンを見せてくれないかしら?」
ルリカはうなずくと、ボールを取り出しアーティーを出した。女性はアーティーを手に乗せるとなでたりした。
「まだ、ポロックを食べさせてないのね」と、つぶやいた。
「コンテストにはもう出たの?」
「はい。こないだのトウカ大会に一回だけ出ました」
「それで、成績は良かった?」
ルリカはトウカ大会の成績を正直に伝えた。
「そう。だったら、ポロックはちゃんと上げたほうがいいわよ」
ポロックはポケモンのコンディションを上げる道具である。ポロックの味で、かっこよさ、うつくしさ、かわいさ、かしこさ、たくましさの五タイプのどれかが上昇する。場合によっては、二つ一気に上昇したり、三つ一気に上昇したりすることもできる。
「もしかして、作り方は知らない?」
「木の実ブレンダーを使って作ることぐらいしか……」
「だったら、私が教えてあげるわ。ポロックのこととかいろんなことを。あ、言い忘れたけど私はクリミっていうの。あなたは?」
「私はルリカです」
クリミはルリカの名前を復調すると、奥の部屋から機械を持ち出してきた。四角い機械で、四隅に三角形のマークがついており、突き出ている部分が真ん中に向いている。真ん中にはふたがついてる。
クリミはそれが木の実ブレンダーだということを教えた。そして使い方も。
「この真ん中に木の実を二つ以上入れるのよ。入れたらふたを閉めて、スイッチを入れる。良いポロックを作るには回転速度が高ければ高いほどいいのができるわ。回転速度を早くするには、ふたについている赤の三角マークが四隅の三角マークのところに来た時に、四隅のボタンを押すの。ぴったり押せば早くなるわ。逆に、はずれると遅くなるから気をつけてね」
それから木の実の種類や持っている成分について教えてもらった。木の実の種類と成分はとても重要なもので、良いポロックを作るには絶対に必要な知識だそうだ。
一通り説明を受けた時にはすでに零時を回っていた。ちょうどキリが良いのでクリミにベッドを勧められたルリカは遠慮しながらもそこで就寝した。
翌日、おいしそうな香りが家の中に漂っていた。その香りでルリカは目覚めた。
「あ、おはよう」
ルリカがおきたのに気づいたクリミはコップに入れた水をルリカに差し出して、顔を洗うように勧めた。顔を洗い歯を磨き戻って来ると、机の上には料理が並べられていた。
「あ、お気遣いなく」
いまさら言っても遅い。そう思っていても言うだけのことを言ったルリカだったが、クリミは「遠慮せずに」といい勧めた。
「これはね」とクリミは言った。
「木の実で作った料理なのよ。もちろん、木の実を使ってない料理もあるけどね」
朝食を取り終えたルリカは、カナズミシティに向かうため出発の準備をした。準備をすぐに終えると、お世話になったクリミにお礼を言った。
「本当にありがとうございました」
「いいのよ。コンテストがんばってね」
ルリカはうなずくと「それでは」といい家から出て行った。その時、クリミはあっと思い出したようにルリカを引きとめ、奥の部屋に入っていった。数分後に戻ってくると、水色の棒の先にモンスターボールに似たようなものがついているケースと木の実を差し出した。
「これはポロックケースよ。ポロックを入れるためのケース。まだ持ってないみたいだからプレゼントするわ」
「でも、さすがにそこまでしていただくには――」
「いいのよ、二つあって余っているやつだから」
クリミはルリカの手をとるとポロックケースを握らせた。
「そして、これは餞別よ」
持っていた木の実――モモンのみ、オレンのみ、チーゴのみ、ブリーのみ――を五つずつ渡した。
「ありがとうございます」
ルリカはそれらをバッグに収め、カナズミシティに旅立っていった。その姿をクリミは見えなくなるまで見送った。
「ジグン」と、クリミは足元にいるジグザグマに言った。
「あの子は私みたい。私がマスマと一緒にコンテストに出ていたときみたいに」
ジグザグマは力強く鳴いた。
第三話終了第四話に続く……
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