次のポケモンコンテストが開催されるヒワマキシティへと向かっているルリカは、その途中で雨に降られたので、手ごろな木の下で雨宿りをしていた。
雨は強く、激しい音を立てながら振り続けており、まさに土砂降りと形容できる。前は雨で何も見えないほどひどく、この雨の中を歩けば、一分もたたぬうちにずぶぬれになるだろう。ヒワマキシティへこの中を歩いていけば、それこそ風邪を引く。
ルリカがいる木の下にも雨は吹き込むことが多かった。雨宿りをしているというのに、雨にぬれていては雨宿りにならないと思うと彼女は憂鬱になった。前にも雨に降られ、雨宿りをしたことがあったが、あの時は家が近くにあったし、そこで休めたからよかったものの、この状況では、家を探すのもできない。
彼女の憂鬱はついに幻覚となりはじめているようだった。彼女の目の前に、青いラグビーボールのような形をしているものが見えはじめた。と、そう思うと、声が聞こえた。
「おや、こんなところで何をしてるんですか?」
彼女は我に返った。すると、目線には白衣をまとった男性と、小さいくもののようなものがあり、その上にラグビーボールのような形をした青い顔をしたポケモンがいた。
「急に雨が降り出したものですから、ここで雨宿りを」ルリカは答えた。
「おやおや、ここだと雨宿りにもならないのでは? なんでしたら、この近くに研究所がありますので、そちらで雨宿りをされてはいかがでしょう?」
「でも、ご迷惑になるのでは?」
「いえいえ、大丈夫ですよ。そんなに小さい研究所じゃありませんから」
研究所はそう遠くない場所にあった。その外見は雨のせいでわからないが、大きい建物であるように思えた。
中に案内されると、ルリカは、例のポケモンを見ながらいった。
「このポケモンはなんというんですか?」
「ポワルンだよ」男性は言った。「天気によってその姿を変えるポケモンなんだ。ほら、ちょうどこれみたいに」
廊下にはられていたポスターを男性は指差した。そのポスターには、四つのポワルンが描かれており、左上から体が白いタイプのもの、右上が、赤いタイプのもの、左下が青いタイプのもの、右下が、白と水色が混ざったようなタイプのもの。
「その白いポワルンというのが、通常タイプのポケモンなんだ。赤いタイプは、天気がいいときで、青いのは今みたいに雨が降っているとき、右下のやつは、雪が降っているときの姿だよ。まあ、ホウエンじゃ雪は降らないからめったにお目にかかれないけどね。この研究所には、このポワルンがたくさんいるんだよ」
「いったいどうしてですか?」
「そうか」と男性は思い立ったようにいった。「君はここが何の研究所か知らないんだね?」
ルリカは正直に知らないと答えた。
「ここはおてんきけんきゅうじょといってね。天気について研究したり、観測したりしてるんだよ」
「そういわれれば、聞いたことがあります。確か、お天気レーダーみたいなのもありますよね?」
「ありますよ。そうだ、この雨がいつやむか調べてみますよ」
男性はその場を離れ、しばらくすると戻ってきた。
「どうやら今日はずっと降るようですね。明日は晴れるそうなのですが。まあ、今日はここでゆっくりしていってください」
「ありがとうございます」
ゆっくりしていろといわれても、さすがに一時間もすれば飽きてしまうのが普通である。室内では練習ができないため、特にやることもできないし、彼女がいるホールには、テレビもない。研究員たちがそのホールを横切るが、彼女に話しかけるものはいなかった。せかせかと歩いているため、忙しいに違いない。
だが、しばらくすると、ポワルンが彼女の前に現れた。どうやら、先ほどのポワルンのようであり、そのポワルンも暇をしているらしい。ルリカはアーティーを出し、共に遊ばせた。その光景は、ルリカにとっても暇を解消するものとなった。
それから一時間ほどたったころ、ホールを通る研究員たちの様子がおかしいのに気づいた。なにやら、やたらと急いでいるようで右へ左へと人が流れていく。その人たちの中からルリカは、先ほどの男性を見つけ出したので、どうしたのか尋ねた。
「外のレーダーが、あまりの雨の強さで壊れてしまったようでね。機械本体が壊れたわけじゃなくて、ネットワークなんだけど……。あのレーダーは、ホウエンの気象観測のすべてをまとめているものだから、みんな急いで修復にあたってるんだよ」
「私にお手伝いできることはありますか?」
「あると思うけど……。とりあえず、ぼくと一緒にきてみてよ」
ルリカはアーティーとポワルンと共に、男性についていった。
男性がやってきたのは屋上だった。激しい雨はまだ降り続け、やはり視界は悪いままである。だが、そこに研究員がいるのは確かであって、雨の中から白衣を着た別の男性が出てきた。傘を持っているが、かなりぬれてしまっている。
「どうやら、機械内部に水が入ってショートしてるらしいな」その男性は言った。「この雨だから、どこからか入り込んだんだろう」
「しかしそれだと困ったな」ルリカを連れてきた男性は言った。「この雨の中じゃ修理するにもできない」
「修理箇所を開けたら、完全に雨が吹き込むからな。傘をさしているおれですら、こんな状況だからな」
「この雨だから、にほんばれを使ってもあまり効果をなさなそうだし、困ったもんだ」
それをきいたルリカはいった。
「にほんばれでしたら、このアーティーもできますよ」
「それは本当かい?」彼女を案内した男性はいう。
「もっとも、あまり使ったことがないので、範囲は狭いでしょうが……」
「大丈夫だ。そのポワルンでも、にほんばれは使える。別のにほんばれがある環境ならば、ポワルンのにほんばれの効果もおのずと大きくなるから、何とかなるだろう。手伝ってくれるかい?」
「ぜひとも!」
二匹のにほんばれは、効果をなすエリアの数センチまでしか雨を通さなかった。にほんばれの中心には、修理するレーダーのパネルがあり、そこまで雨が吹き込むのは、この雨でもさすがに難しいことだった。
雨は思うことだろう。――いったいこの場所はなんなんだ、と。
レーダーの修理には長い時間を要した。単純に水が吹き込んだといえど、機械はそう簡単にはなおらない。長丁場のにほんばれでは、さすがにアーティーもポワルンも体力がなくなってきている。アーティーはなんとかあさのひざしで体力は回復しているが、ポワルンはそうもいかなかった。赤い、太陽のような姿になったポワルンは、暑さ対策はできるようになっていたが、長丁場ではそれも続かない。
ルリカは、ポワルンの様子がおかしいことを察知すると、修理している研究員たちに言った。
「あと、どれくらいかかるんですか?」
このとき、すでに作業から二時間はたっていた。研究員たちの額にも汗がにじんでいる。
「もう少しだ」と片方の男性はいった。「あともう少し……」
ポワルンの表情は次第に険しくなっていった。先ほどまで雨が降っていなかった場所が、少しずつぬれはじめていた。にほんばれの効果が弱ってきているのだ。
「がんばって、ポワルン!」ルリカは叫び、応援した。
ポワルンの表情はますます険しくなる。ルリカはいらいらしながら、もう一度同じことを研究員たちに言うが、帰ってくるのは、先ほどと同じ「あと少しだ」という返事だった。
「はやくしてください!」ルリカはせかすように言う。「ポワルンのにほんばれはもう少しで切れてしまいます。このままじゃ、またダメになって、ポワルンも倒れてしまいます!」
それに対して返答はなかった。ルリカはまたポワルンをみた。さすがにもう無理らしい、とわかるほど表情はつらく険しくなっている。
ルリカは、いったんやめて後でやろう、と提案しようとしたそのとき、研究員は大きな声で言った。
「できた!」
それと同時に、にほんばれの効果が一気に弱まった。ポワルンは、上空から下へと落ちてくる。さらに、雨がレーダーの修理部分へと近づいてくる。
ルリカは、落ちてくるポワルンをしっかりとキャッチした。その姿は、雨にぬれているのに、白い姿だった。
「大丈夫、ポワルン?」
ポワルンは弱々しい声で、返事をした。どうやら、つかれきってしまっているだけのようであった。
研究員たちが、彼女のところへやってきた。
「もうレーダーのほうは大丈夫だ。君のアゲハントのにほんばれの効果でなんとかなったよ。さあ、ここにいてはぬれるだけだ。中に入ろう」
翌日には、すっかりレーダーの調子はよくなっていた。おてんきけんきゅうじょも次第にもとの空気へと戻っていた。
その日は観測どおり晴天で、ルリカは、早速ヒワマキシティへいくため、挨拶を最初に会った研究員の人にした。
「いやいや、こちらこそありがとう。おかげで、レーダーは直ったからね。おや?」
挨拶している二人のところへあのポワルンがやってきた。すっかり元気になったことをあらわすかのように、見ているこちらもうれしくなるほどの笑みを浮かべている。
「元気になったんだね、ポワルン」ルリカはポワルンの頭をなでながらいった。「それじゃ、私はこれで失礼します」
「うん、ポケモンコンテストがんばってね」
「はい。じゃあね、ポワルン。元気でね」
ルリカは、研究員とポワルンに背を向け、歩き出した。
その姿をみているポワルンの表情は、先ほどの表情とはうってかわって、今にでも泣き出しそうだった。ポワルンは何かを決心したかのように、彼女のところへと飛び出していった。
突然、ポワルンが彼女の肩に乗りかかったのでルリカは驚いてしまった。
「どうしたの、ポワルン?」彼女は尋ねる。
ポワルンはニコニコした表情で、彼女になすりつく。その様子に戸惑うルリカだったが、研究員の人はそれをみて笑っている。
「どうやら、君のことが気に入ったようだね」研究員はいう。
「気に入ったって……」相変わらずルリカは戸惑う。「これじゃ、ヒワマキにいけませんよ」
「よかったら、君がつれていってあげてくれないか?」
「私が?」ルリカは驚いたように言う。
「うん、このまま引き離してもポワルンがかわいそうだよ。研究所には、ほかにもたくさんのポワルンがいるから、そのポワルンがいなくなっても支障はないし、気にすることはないよ。そのポワルンの気持ちを尊重するのが一番だと思うんだ」
ルリカはポワルンをみる。相変わらず、ニコニコした表情である。研究員の言葉を聞いたからか、どこか気分が高揚しているようにも思える。
「私と一緒に旅に出てみる?」ルリカはポワルンに言った。
ポワルンは、うれしそうにうなずいた。ルリカは、空のモンスターボールを取り出し、ポワルンをそれに収めた。
再度、ポワルンを出すと、ポワルンは彼女の肩の上に乗った。
「じゃ、そのポワルンのことをよろしく頼むよ」
「はい。じゃあ、いこうか……そうだ、あなたの名前を付けなきゃ。そうだなぁ……」――ルリカは思案する――「ポルザー……ってのはどう?」
ポワルンは、うれしそうにうなずく。
「よし、じゃああなたはこれからポルザーよ。これからよろしくね、ポルザー!」
第十八話終了第十九話に続く……
コメントを送る
この小説に関するコメントがあればどうぞ。