わたしはどうしてここにいるんだろう。最後の記憶に残っている場所は暗い場所だったのに、今いる場所はランプの光で明かりがついている場所だった。床に寝かされていたのでふわわと宙にわたしは浮くとあたりを見回した。そこは三角形の小さな建物で出入り口らしき場所はなかった。でもわたしには出入り口なんてなくても関係ない。だって、通り抜けられるんだから。
壁を通り抜けようと体を動かそうとした時、一箇所の壁が急に開いた。そこから彼が――背が高く体格のいい人間が――入ってきた。彼はわたしが宙に浮いているのを見るなり「おお、回復したんだな、ムウマ!」と喜びの叫びを上げた。
わたしはこの場からいなくなるのをためらった。彼はわたしのことを心配しているように思えたし、わたしを助けたような口ぶりをしていたからである。もし助けてくれたならお礼をしなければいけないし。
彼はわたしの体の様子を調べると、わたしが道端に倒れていたということを教えてくれた。
「最初は驚いたよ。何にもないこの場所に一つの黒い影があったんだからな。何か悪いものが浮かんできたのかと思ったよ」
その黒い影に近づいてみると、それがムウマ――わたしであることを知り意識がないので彼が介抱してくれたのだという。わたしはなぜ道端に倒れていたかを思い出してみた。だけど、どうしても思い出せなかった。それどころか、わたしが昔、どこで何をしていたかもわからなくなっていた。覚えているのはわたし自身がムウマという種族で、どんな力を持っているかということだけ。
わたしは困ってしまった。このままではどこに行けばいいのかわからない。どうやってこの後を過ごして行こう? 身寄りもわからないわたしに。そんな様子を彼は察してくれ、一言こういってくれた。
「ねえ、おれと一緒に旅をしないか?」
わたしたちは共に過ごすようになった。彼は数々の町を渡り歩いている行商人で、行く町々でわたしの身元を調べてくれた。わたしの身元を調べてくれ食事もくれる彼と出会えたわたしはとても幸運だと町々を渡っている間に思った。でも、わたしの身元がわかることはなかった。
わたしは彼と共に旅を続けて行くうちに彼に惹かれていった。もうわたしの身元なんてわからなくてもいいから、彼と一緒に旅を続けて行きたい――そう思うようになった。
でも、それはかなわなかった。
彼とわたしはロッドタウンという町の近くにあるオアシスのような小さな泉やってきていた。ロッドタウンで休もうと思ったのだけど、お金の問題で宿に泊まることができず、水もあるこの泉を発見しここで野宿することになったのだ。野宿することは久しぶりではなかった。彼の行商はあまりいい成績を残しておらず、金銭面ではかなり苦しい生活を送っていた。そのため、宿に泊まることなどほとんどなかったのだ。
月明かりに照らされぬテントの中でわたしは彼と共に寝袋の中で眠っていた。いつもわたしは彼の寝袋の中に入り込み眠っている、それはこの日も変わらなかった。だけど、そこから引きずりだされるのは初めてだった。
わたしは急に目を覚ました。辺りは真っ暗で、わたしの目――暗闇の中でも利く目――でさえもここでは何も見えなかった。その後、何かに閉じ込められているということがわかり、通り抜けの能力で脱出しようとしたが脱出することもできなかった。この場所はわたしの力をすべてセーブされているようだ。
ここから抜け出す方法がないことがわかり、一体、わたしはどうなるのだろう、と考えている時、何かが聞こえた。それは小さな音で聞き取りには困ってしまったけど少しばかり聞こえた。
「――どうする気だ!」
彼の声だ。普段の彼の声ではなく、怒っているようだった。それからしばらく何も聞こえないと思うとまた聞こえた。
「――ざけるな――」
まだ怒っている。一体、外はどうなってるんだろう? わたしはあんたここから脱出できないものかと思い、いろいろと試みてみたが脱出することは結局かなわなかった。すると、突如、意識がもうろうとし始めてきた。わたしは必死に耐えたが、一向になおる見込みはない。そんな時、また、言葉が聞こえた。今度ははっきりした声で、彼の声ではなかった。
「ムウマはもともと我が軍のポケモンなのだよ、おろかな人間よ」
それを聞き取ると、何かを考える間もなく意識を失った。
わたしが目を覚ますとそこは最後の記憶の場所より明るく豪華な場所だった。天井にはシャンデリアがぶら下がり、壁には高級そうな絵が飾られている。部屋の置物もみな高級そうなテーブルや棚がある。床には美しい模様をしたじゅうたんが敷かれている。
わたしは一体、どうしてこんなところにいるのかわからなかった。記憶をたどろうとしても、覚えていることは何もなかった。彼のことも……。
「目を覚ましたのだな」
不意にどこかで聞いたことのあるような声が聞こえた。わたしは驚きあたりを見回してみてが誰もいない。すると、突然、部屋の中央にフーディンが現れた。
「あなたは誰? それにここはどこ?」わたしはそのフーディンに訊ねた。
「わしはフーデ。ポケモン軍の王である。ここはウィルガイアにある我が軍の城だ」
ウィルガイア――聞いたことはあるけど全然思い出せない。確かどこかの町だったと思う。わたしはそのことを訊ねずに、ポケモン軍とは何かを訊ねた。
「ポケモン軍は我がポケモンたちだけで構成された軍のことだ。いまやポケモン軍は優勢。人間軍などには負けることはないだろう」
「人間軍ってなんですか?」
それをきいたフーディンはわたしを驚きの視線をあてた。
「何も知らないのだな。いま、ポケモンと人間が対立している――戦争が起こっているのだよ。そういえばわかるかね?」
わたしは驚きながら「はい」と答えた。戦争が起こってるなんてまったく知らなかった。
「ならいい。君にはポケモン軍の重要な任務があるのだ。ついてきたまえ」
フーデに連れて行かれた場所はそれはたくさんのポケモン綺麗に整列していた部屋だった。わたしから見て右側には強そうなポケモンたち――サイドンやガルーラなど――がいて先頭にはリザードンが立っている。その隣にはラッキーばかりがいて先頭にハピナス。その隣は、ジュカインやテッカニンなどのポケモンがいて先頭はそのテッカニンがいた。
「このものが」とフーデはわたしを指して言った。「第三部隊のリーダーとなるムマだ。よろしくみてやってくれ」
わたしはそれを聞いて驚いた。わたしがリーダー? それにこれは一体なんなの?
「ちょっと待ってください。わたしがリーダーってなんなんですか? それにこれは一体――」
「君は第三部隊のリーダーとして戦争に参加するんだ。ここにいるものは皆、戦争に参加するものたちだ」
「でもわたし――」
またしてもフーデはわたしが言うことをさえぎっていった。
「君の名前はムマだ。そして、第三部隊リーダーとして戦争に出陣してもらう」
それからのわたしの記憶はほとんど残っていない。気がついたら戦場に来ていた。今思えばその記憶喪失はフーデによるものだったのかもしれない。わたしを戦争に行かせるための。そして、疑問に思うのは“なぜわたしを戦争に参加させたがっている”のかだった。だが、その質問は今のわたしだから思えるわけで当時のわたしとしてはそんなこと考えてもみなかった。なぜなら、一部の記憶が飛んでからわたしは戦争に積極的に参加するようになっていたからだ。
第三部隊はゲリラ・隠密隊で、夜になっては敵のキャンプ地に忍び寄りたくさんの者を倒した。昼間は木陰に隠れ、テッカニンたちのゲリラ作戦を指揮していた。
そんなある日の夜。わたしは思いがけないことに出会った。
その日は月が綺麗に輝き月光はわたしを照らしていた。このときわたしは一人で行動をしていた。近くに敵のキャンプ地がありいくら第三部隊であっても大勢でいけば完全に見つかってしまうからだった。だが、その配慮もむなしくわたしは一人の人間とばったりと出くわしてしまった。
しばらく沈黙が続いた。相手には月光がささず誰かはわたしにとって見分けはつかなかったが月光に映されているわたしを相手は知っているようだった。すると二、三歩相手は前に進み出ると月光が相手を映した。
それは彼だった。記憶を失ったはずなのにその相手をみたとたんわたしと共に旅をした――そして引き裂かれてしまった彼であることがすぐにわかった。このときの彼は迷彩服を着て依然と比べやせ細っていた。また、目は以前の優しい目ではなく鋭い獲物をとらえる目だった。
「リョウジくん」わたしはそうつぶやいた(もちろん、彼にその言葉が通じることはない)。
「おまえ――ポケモン軍に従っているのか?」彼はそう訊いてきた。
わたしはその質問に対して驚いたが、うんと答えた。
「だったら――おまえを倒すまで!」
彼はそういうとヤミカラスをモンスターボールから出しわたしに攻撃を仕掛けてきた。それに驚いたわたしは叫んだ。
「やめて! わたしだよ。わたしがわからないの?」
「ムウマ――ポケモン軍にいるお前などおれの知っているものではない! やれえヤミカラス!」
彼はわたしを覚えていた。でも、わたしが知っている彼ではなかった。この戦争の中で彼の心もやられてしまったのだろうか――そう思いながらわたしは首につけている首輪型回転式ボールホルダーからパラスを取り出しヤミカラスに対抗することにした。夜の戦いは慣れている。わたしと共に戦ってきたパラスも得意だ。だが、相手も夜が得意なヤミカラスだったのでこのバトルは力の差で決着がつく。
でも、わたしはバトルをする気は一切なかった。
「パラス! しびれごな!」
ヤミカラスは見事にしびれごなを吸い込みその場で地上へと落下しまひ状態で動けなくなった。
わたしはその状態を確認するとパラスにヤミカラスを監視するようにいって、悲しい目で彼をみつめた。
「どういうつもりだ?」と彼は言った。「ヤミカラスをまひさせ動けなくするだけなんてな」
「どうしてわたしと戦おうとしたの? ねえ、わたしたちは親友でしょう?」
わたしは訴えかけるような目をしながらそういった。
「おれはこの戦争で死ぬわけにはいかない。たとえお前でもポケモン軍のものなら倒さなければならない。ムウマ、悪いがお前にはここで倒されてもらうしかないんだ!」
彼はそういうと新しいポケモンを取り出そうとした。わたしは急いでパラスの近くに戻りバトルの体制に入ろうとした。が、バトルは起こらなかった。
「ム……ウマ――」
その声が聞こえると共にバタッと何かが倒れる音がした。わたしは後ろを振り向くとそこにはフーデの姿があり、地面には彼が倒れていた。
「リョウジくん!」
わたしは急いで彼に近づいた。まだ息はある。彼は両腕をあげわたしを包み込むようにして腕を地面に落とした。
最後に彼はこういった。
「生き……ろ。ムウ……マ――」
彼は息を引き取った。
わたしは顔をあげフーデをみて怒った声で言った。
「なんでこんなことを!」
「その人間が邪魔なのだよ。ムマ、お前の記憶はいくら消してもその男のことだけは心から離れなかった。この人間と会ったらお前は人間軍に従うだろうと私は考えていた。お前は優秀な人材だ。人間軍などに行かせるわけにはいかない」
「だからって――彼を殺すなんて許せない!」
わたしはパラスにしびれごなの指示を与えた。しかし、しびれごなはフーデのねんりきで払い飛ばされてしまった。
「残念だな、ムマ。お前みたいな人材がこんな人間に従うなんて。この人間にそこまで従うなら追いかけさせてやろう――いやだったら今のうちだぞ」
このときわたしはフーデには従わなかった。何より彼を悪く言う人について行く気持ちはなかったし、彼のところに行ったほうがわたしは幸せだと思ったから。
それからわたしの目の前に見えるのは暗い暗い闇ばかり。動くことさえなくただただずっと彼のことを考えている。時々、暗闇の中に彼の笑顔が現れる。
☆あとがき☆
某所の同人誌計画に応募しようかとたくらんだ小説です。五月中に完成して、推敲をしたのですが、初版からたいしたものじゃなかったので、こうして公開することが妥当になりそうだと予感していたのですが、それがみごとにあたりました。
さて、最近のリアルポケモントレーナーシリーズの短編は、前作モンスターボール開発者と共に、長編の主人公たちが登場しない傾向にあって、これもその例にもれないものになりました。時期はモンスターボール開発者よりあとで、人ポケ戦争に巻き込まれることになったムウマを描いています。
まあ、内容を読めばわかるのでそんなことを書く必要はないんですが。
ちなみに、初版(推敲前のこれ)もいずれ公開しようと思ってますが、あまりにひどいのでどうなるかはわかりません。
コメントを送る
この小説に関するコメントがあればどうぞ。