モンスター暦四五〇〇年を向かえ、いまだに地上に存在する赤と白の丸いボール――モンスターボール。
不思議なものである。モンスターボールを開発した人間達はこの世に存在していないのに、モンスターボールはいまだに使用され残っているのだから。さらには改良を続けられているのだ――ポケモンたちの手で。
モンスターボール。それがこの世に生まれたのは今から三六○年ほど前の時代だった。
「ふぅ、これで完成だな」
大都市ウィルガイアにある一軒の小さな家。その家の地下室で一人の男の人間が手の平だいの赤と白のボールを持っていた。人間はそれができたことを大変喜んでいた。
「おい、サナ。こっちに来てみろよ。これがおれらの長年の研究の成果でできたボールだ」
ランプの光しかなく暗い中からサナと呼ばれたサーナイトが姿を現した。サナは人間からボールを手渡されそれを眺めていた。人間にボールを戻すとサナは笑顔を見せた。なかなかの出来だということだろう。
「こいつがあればおれらはあの城に住めるだろうな。こんなちんけな生活からはおさらばだぜ!」
人間とサナの生活は苦しいものだった。人間は働きもせず今完成したばかりのボールを作るのに何十年と歳月をかけてきた。その間の資金は町で募金活動をしていたサナが稼ぎ、それだけではたりないので人間はサナの超能力を利用してもう万引きとはいえない額になっているほど万引きをしていた。
ウィルガイアはこの地域の首都であった。そのため巨大な城がそびえ立っており、王様や優秀な研究者達などが住んでいた。人間はそこに住むためにこのボールの研究を長年続けてきたのだ。このボールにはすごい機能がついている。
「サナも知ってるとおり、このボールはどんな大型のポケモンでも収めることができるんだ」
今まで人間とポケモンは同じ空間に住んでいた。それ故、大型のポケモン――例えばギャラドスやイワーク――とは共に共存することができたかった。そのため、大型ポケモンは皆野生で住んでいるのだ。だが、このボールを使えばそれらのポケモンを共に手近にいさせることができるのだ。
「だけど、まだ完全にできたかはわからないんだ」と人間はいった。「サナ、このボールに入る最初の実験となってくれないか? 大丈夫さ、設計に問題はないはずなんだ」
サナは何のためらいもなくうなずいた。人間はそれを受け取ると、ボールをサナに投げつけた。
ボールはサナに当たると開きサナを吸収した。サナが完全に吸収されると開閉部分が閉じ、床に音を立てて落ちた。地下室は静けさで包まれた。人間の前にはサナの姿はない。代わりにボールだけが転がっている。人間はそれを拾うと宙に放り投げた。すると、ボールは再度開きまばゆい閃光と共にサナがあわられた。ボールは開閉部分を閉じて床に落ちた。
人間は心が躍った。ついに自分の研究の成果が実ったのだから。そして、この苦しい生活から脱出して何百倍という裕福な生活を送れるのだから。人間は書類をまとめ、ボールを十個ほど作ってからサナと共に城へと向かった。
城の王様と研究者達はその研究品に大変ざわめいた。ポケモンをボールに入れてどんなところでも出せる道具など存在するのかと。人間はもちろん実践をして見せそれを実証した。王様と研究者達はその実績を認めた。
「して、そのボールの名前はなんというのか?」王様は訊いた。
「名前は――モンスターボールと申します」
それからの人間の生活はパラダイスだった。城の綺麗なふかふかのベッドなどがある部屋を与えられ底に住み始め、料理は一流のもの――時々二流だったがそれでもおいしかった――が出てきて、研究室もたくさんのものが整っていてモンスターボールの大量生産などが始められた。このとき、主にモンスターボールは城の者たちだけが使っており一般には流布されなかった。
それから数年後にモンスターボールを開発した人間は王様に提案した。
「モンスターボールを一般に流布してみてはいかがでしょうか?」
王様はこれに対してなぜかと訊いてきた。それもそうだろう。モンスターボールはその能力ゆえに一般に広めると反逆が起こるのではないかと考えていたから一般に流布していなかったのだ。それは城の者皆が知っていることだった。
「我らはすでに強力なポケモンたちを手持ちとして所持しています。ですが、一般はまだそれをしていません。それ故、我らの方が強いこととなると存知阿賀ます。となれば、一般に流布しても反逆が起こることはないのではないでしょうか?
それに一般に流布するといえどモンスターボールを販売するのです。そうなれば我が国家に大量の金が回ってくるでしょう」
その考えは王を考えさせた。確かに後者の考えは喜ばれるものである。だが、前者については考え物だろう。一般でも強い野生ポケモンを捕まえれば反逆は起こるのではないだろうか? この一件はとりあえず保留となった。
だが、保留はすぐに解除され一般に流布されることが決定した。早急に準備が進められ販売と同時に完売となり、城には多額の金が舞い込んできた。この一件でモンスターボール開発者の人間は高い地位を得たのだった。
それから何十年とたってもモンスターボールを開発した人間は昔では考えられない生活を送っていた。もちろん、人間を助けていたサナも裕福な生活を受けのびのびと育って行った。
そして、時はモンスター暦四二〇〇年を迎えた。このとき、モンスターボール開発者の人間はすでによぼよぼとまでは行かないが老人となっており、研究には携わってはいなかった。それと同時にこの年に新しい王が就任した。
「まさかあなたが王になるとは思いもしなかった」モンスターボール開発者は新しい王に向かって言った。
「残念だな。お前が王になれなくてな。所詮、モンスターボールを開発しこの国に多額の金を入れたとはいえ政治家には勝てないんだ。これからは気安く話しかけてくるなよ。王としての威厳がなくなるからな」
「そんなことを言うのかよ兄貴。王になろうがおれとお前は兄弟じゃろうが?」
「気安く話しかけるなといっただろ!」王は怒りその場を去った。
それから数日後、モンスターボール開発者は処罰を受けた。王様に気安くタメ語で話したこと。王様を怒らせたことによって。王はじきじきに言った。
「お前の顔など二度と見たくない! この城から出た行け!」
モンスターボール開発者は追放された。著名な芸能人が自己破産したように途方にくれ、金もなくなった。もうあの裕福な生活には戻れない。
モンスターボール開発者の放浪の旅は続いた。そして、ある場所に来たとき一匹のきつねがモンスターボール開発者とサナの前に現れた。そのきつねは人間の言葉を話しモンスターボール開発者を驚かせた。
「汝、この地になんのようだ」一匹のきつねは言った。そのきつねは白い体で尾が九本ある美しい動物――もしかしたらポケモン――だった。
「用などない。おれは放浪の旅に出ているだけだ。お前こそなんのようだ? 急に人間の言葉を話す化け物め」
「この地にようがないのならば早く去れ。この地に人間などが来れば死ぬだけだ」
一匹のきつねはそう言うとその場を去って行こうとした。だが、人間はイラついていた。きつねになぜそんなことを言わなければならないのだ!
「ちょっと待ちやがれ!」
年老いているのにもかかわらず走りきつねの尻尾を握り、去るのをとめた。するとつぶやいた。
「おろかな人間め……」
「はっ? なにを言ってやがる」
きつねは九本の尾をたくみに動かし始めた。それによって人間は尾から手を離してしまった。すると、きつねは青い炎を無数に浮かび上がらせた。
「汝、我の呪いを受けたまえ」
青い炎は人間に向かって飛んで行った。人間はその驚きで足が動かない。その炎にやられるのを覚悟して目をつむった。だが、数秒たっても痛みを感じていなかった。ゆっくりと目を開けると、そこにはサナが立っていた。青い炎をサナが受け止めた――いや、受けたのだ。
「さ、サナ!?」
その光景を見ているきつねは少し考えながら言った。
「汝、このものを助けたいか?」
「なんだって」
「このものを助けたいならばこちらに来い。そうしたらこのものは助け我の尾を触れた汝の罪を免除しよう」
人間は考えた。このきつねを信じていいものだろうか? あっちに行ったら自分はのろわれてしまうのではないか。サナが犠牲になった今、自分は逃げるべきではないのか、と。サナには申し訳ないと思いながらも。
そして、人間が出した結論。それはこの場から逃げることだった。
「おろかな人間め。汝、我の呪いを受けたまえ」
きつねは再度青い炎を浮かび上がらせ、逃げ出した人間にそれをぶつけた。
その後のその人間を知っているものは呪いをかけたきつねしかいない。
それからだ。モンスター暦の中で一番有名な戦争「人ポケ戦争」が始まったのは……。
コメントを送る
この小説に関するコメントがあればどうぞ。